驚がくの日本語テキスト
外国人になかなか名前を覚えてもらえない「イクエ」です。
発音が難しいみたい。
ケンゾーはブランドの「KENZO」が日本に比べて外国でかなり人気なのですぐに覚えてもらえる。
いいなあ〜。
スペインで行きたかったところ。
春祭りが開かれ、闘牛やフラメンコの本場セビージャ。
ケンゾーの友人が住んでいるスペインの首都マドリード。
天才建築家、ガウディーがつくった教会サグラダファミリアのあるバルセロナ。
そして・・・。
バスク地方!
バスク国、バスク自治州とも言われ、スペイン語とは違う言語を話すバスク民族が住んでいる。
パレスチナを旅したときはバスク出身のカップルと出会って、その2人は「どこの国から来たの?」と聞かれると「スペイン」ではなく堂々と「バスクカントリー」と答えていた。
2人はバスク人の文化や言語はスペインとはまったく違うし、独立したいと言っていた。
中国に行ったらチベットに行きたいし、イスラエルに行ったらパレスチナに行かないと、なんだかその地域のことを語る資格はないなと言うか、そこに住む人たちに失礼と言うか、そんな気持ちが起こってくる。
バスク地方にはスペインの有名な観光地があるわけではないけれど、イクエとケンゾーがはずしたくなかった場所。
ということで、物価の高いヨーロッパの国は主要な観光地だけをパッパッとめぐりたかったけど、スペイン北部のバスク地方を周遊することにした。
最初の行き先は第2の都市、ビトリア。

お世話になった移民カップル、クリスティーナとベルクインが車でわざわざバスターミナルまで送ってくれて、バスでビトリアへ。
およそ2時間あまりで、運賃ひとり8.23ユーロ。
きょうもカウチサーフィンで、バスク人の家に泊めてもらうことになっている。
待ち合わせのビトリアの駅まで歩いて向かう。
オフホワイトに紺色の駅は、趣きがありながらもスタイリッシュ。

スペイン語とバスク語は似ても似つかない。
道路標識や案内板にはスペイン語とバスク語がどちらも記されている。
駅の窓口の看板。
スペイン語のVenta de billetes(切符販売)は、バスク語だとTxartelakなのかな。

きょうお世話になるのは、ウナイという名前の独身の男性。
風力発電などの自然エネルギーが専門の大学の先生。
自然エネルギーについて研究しているとあって、いつも移動手段は地球に優しい自転車のようで、大学から自転車で駆けつけてくれた。

ちなみにウナイはバスク語を使って教えるクラスとスペイン語で教えるクラスの両方をもっているんだって。
たしかにそうしないとバスク以外のスペイン出身の学生たちにはわからないもんね。
日常会話は家族や昔からの友人とはバスク語で、ほかのときはスペイン語と混ざってるんだそう。
忙しいウナイは、まだきょうの仕事は終わっていない。
すぐにまた大学に戻らないといけない。
「あのバスに乗って、途中で乗り換えてね。
住所はこれ。
あ、これが合鍵で、これが部屋の間取り図。
ここの部屋を使っていいし、ここがパソコンの部屋。
冷蔵庫にあるのは自由に食べていいからね!
わたしは9時過ぎに帰るよ。
またね!」
これまでも旅人を受け入れているウナイは、とても慣れている。
わたしたちは途中のバスの乗り換えで手間取ったけど、いつものように近くのおじさんとおばさんが教えてくれて無事にたどり着くことができた。
このバスクも含めてスペインでは、困っていたらすぐに誰かが助けてくれる。
たいていの人は英語をしゃべれないんだけど、それでも物怖じせずに外国人を助けようとしてくれるところはすてきだ。
スペイン語で話しかけられて教えられてもわからないことが多いけど、それでもとても心強いしうれしい。
ウナイの家は街の外れの新興住宅地。
最近できたばかりのような大型マンションだった。

部屋はよく片付いていてシンプルでウナイのセンスがわかる。
わたしたちには、ゲスト用の寝室を用意してくれていた。
ウナイは一人暮らしだけど、ここは日本で言うファミリー物件でリビングなんてふかふかのソファが置いてあるし、何人でも泊まれそう。

Wi-Fiもあって、キッチンも洗濯機も自由に使わせてもらえるし、ゲストハウスよりも断然居心地がいい!
わたしたちにとっては天国のような場所だ〜。

すてきなマンションでグータラしていたら、ウナイが帰ってきた。
「ご飯どうします?
ウナイはいつもどんな物を食べるの?」
「僕はいつもサラダやパンで済ませるよ。」
「じゃあ、きょうはわたしたちが何か作りますね。
スーパー開いてるかな。」
「もうこの時間は閉まってるね。
家にあるのはこの冷蔵庫の中のものと、お米と・・・。」
ありものを最大限に使わせてもらって、アボカドサラダとピラフと形の崩れた卵焼きの完成。


冷えたロゼワインで乾杯。
ウナイ手作りのベリーのお酒もいただいた。
ウナイが山で採ったベリーで作ったもので、濃いピンク色のお酒。
アルコール度数はけっこう高くて、チビリチビリと飲む。
でも、とても甘くておいしいから女性の口にも合う。
ウナイはこのビトリアから少し離れた村で生まれ育ったのだそう。
「ウナイ」っていうのは、バスク人ならではの名前なんだって。
「バスク人の名前には意味があるんだよ。
ウナイって名前の意味は
『山に住んでいて、たくさんの牛を飼っている男』
っていう意味なんだ。
つまり、カウボーイってこと。」
スペインとは違う文化をもつバスク人。
バスクの分離独立を求めてスペインでテロを行なうグループもいるけれど、そこまで過激な人はほとんどいない。
ただ、財政面に関してバスクの自治権を認めてもらい自由にできればなあと願っている人は多いみたい。
スペインの北部にあって海に面しているバスク地方には港もあり商業も盛んだし、海外からやってきている企業や工場も多い。
バスクはスペインのほかの地域よりも経済的に力をもっていて潤っている。
それなのに、いまスペインは不況まっただなか。
税金を国にたくさんもっていかれて、ほかのスペイン人たちの生活やスペインの財政を自分たちが支えていることに不満や不公平感を持っているんだって。
難しい問題だね。
居心地のいいウナイの家に2泊させてもらった。
ウナイは自転車で旅することが好きで、いろんな国に旅行に行っていてお互い旅の話をするのが楽しかった。
ルーマニアはすごく旧式の列車が走っていて、鶏を両腕に抱えて乗ってくる乗客もいて、同じヨーロッパとは思えない国で刺激的、なんて話してた。
きのうお世話になったクリスティーナの住むルーマニア。
どんな国なんだろう、いつかは行ってみたいなあ。
「何泊でもしていいよ」なんて言われていたけれど、じつはもう一人カウチサーフィンのホストがこの街で見つかっていた。
いつもはひとつの街で一家庭だけにお世話になるようにしているけど、その人は日本に興味をもってくれているようなので一泊だけお世話になることにした。
ウナイの家は最高に居心地がよかったけれど郊外だった。
今度の家は街の中心部にあるみたいで、それはそれで楽しい滞在になりそう。

待ち合わせ場所は美術館の前。
やってきたのはまたしても自転車が移動手段のデイビッド。

ちなみにデイビッドの先祖も昔からここバスクに住んでいるけど、デイビッドって名前はバスク独特の名前じゃないよね。
いまでは一般的な名前をつけることも多いのかもしれない。
デイビッドはウナイが教えている大学で、院生として生物学を学んでいる。
デイビッドは観光地となっている旧市街のど真ん中に一人暮らしをしていた。
亡くなったおじいちゃんがこの近くに昔住んでいて、ここは車庫だったんだって。
間口が狭く細長い車庫を改造して、この前まではここに自分の会社を作っていたんだそう。

病院から委託される研究を引き受けていたそうだけど、そのオフィスを再び改造して自分の自宅にしている。
細長いスペースを上手に活用して、キッチンやバスルームをつくり、2階建てのロフトをつけて実質3階建てになっている。
イクエとケンゾーには2階部分のロフトに置いたダブルベッドを貸してくれた。

デイビッドは1人でやるスポーツが好きで、自転車、サーフィン、水泳、マラソン、山登りにスキーとたくさんの趣味をもっている。

いっしょにスーパーに買い出しに行って、夕食を作ることにした。
ヨーロッパでは台所に立つと、かなりの確率でアルコールを出される。
作る段階から、もう宴は始まっている。

デイビッドが作ってくれているのはトルティージャ。
じゃがいもを入れたスペイン風オムレツ。
じゃがいもを炒めて、たっぷり油を敷いて溶いた卵を焼いていく。


ホットケーキのように上手にひっくり返して両面をこんがりと焼く。
中はふわふわがいいから、火加減が難しいかも。
そして、デイビッド特製のトルティージャの完成 ♪

デイビッドは料理も得意で、なかでもこのトルティージャは自慢の一品。
大学院の研究室で、たまに料理を持ちよって食事会をするときがあるそうなんだけど、いつもトルティージャを作っていくことにしていて、みんなから大好評なんだって!
これは楽しみ♡
わたしたちは鶏肉の煮込み。

いただきま〜す!!

おいしい〜!!!
いままでスペインに来て何度かトルティージャを食べてきたけど断然これがいちばんおいしい。
なんでジャガイモと卵でこんなにおいしんだろう。
香ばしくてふっくらしていてあつあつで、ちょうどいい塩加減。
簡単なレシピだから、自分もこんなにおいしいの作れたらいいなあ。
デイビッドもウナイと同じように、手作りのベリーのお酒をふるまってくれた。
酸味と甘み。
食前酒や食後にぴったりのお酒。

大学院で研究しているデイビッドは、海外に派遣されることが決まっている。
2か国で、最初はカナダ。
そしてそのあとが日本。
筑波大学に行くんだって。
そんなデイビッドの家には、不思議なものがある。

「このクッションなんていう意味?」
って聞かれるけど
「うん、ごめん、わかんない・・・。
えーっと、吉ってのはラッキーって意味だよ。」
「これKATANAでしょ。
刃に文字のようなものが刻んであるんだけど。」

「うん、ごめん、わかんない・・・。
漢字じゃないよ、わたしたちからするとアラビア語に見えるけど
そうじゃないしね。」
「日本に行くって言ったらさ、友だちがこの本をくれたんだ。
タイトルは『2週間で日本語を話せる』。」

「でも、この本すごく変なんだよ。
自己紹介とかあいさつとかそんな基本会話が全然載ってない。
こんな本で勉強したって、2週間で日本語を話せるようにはならないと思うんだよ。
だって、最初のページがこれだもん。」

なに!?これ?
専門的すぎるし、わたしでさえ知らない日本語めじろ押し。
「点火プラグとコイルを繋ぐケーブル」ってどこをさすの?
これは自動車工場で働く人専用の日本語教本では?
と思ったけど、そうではなさそう。
自衛隊に入隊しない限り使わないような単語も。

決してこの本は分厚いわけではない。
手のひらサイズで持ち運びやすい厚さ。
「2週間で日本語を話せる」はずなのに、こんな言葉を覚えたって使う機会はほとんどない。
しかも変なのがアルファベットで日本語を表記してあるページもあれば、アルファベットの表記がなくてただ平仮名カタカナ漢字で書いてあるだけで、外国人には読めないページもある。

「ロブスターフォーク」ってどんなフォーク?
「ビール用テラコッタ壷」って何?
日本人のわたしが聞きたい。

外国人に「ナイテイ カイロー」とか「ショーセイドー」とか「ヨク ロー」とか言われたら、あなたは理解してあげられますか?

あとはもう古すぎて今では意味が分からない人も多いんじゃないの?という単語もある。
たとえば乗り物編にあった「火夫」(機関車の火を焚く役割の人)とか「転轍手」とか。
「録画機」ってのもあるけど、外国人が「ロクガキ」って言うより普通に英語で「ビデオ」とか「カメラ」って言った方が通じるよね。
パーティー編には「夜会服」とか「クリーム状ほおべに」なんてのも。
何度も言うけど、これは百科事典みたいな本じゃなくて小さくて薄い本。
どうしてページ数も限られているのに自己紹介やあいさつじゃなくて、こんな単語をチョイスしたのか意味不明。
不思議な専門用語以外にも「こんな会話いつ使うの?」というものばかり。


いまの時代に電報って・・・。
一語いくらって・・・。
インターネットがあるこの時代に、そもそもまだ国際電報っていうシステムが存在するのかな。
日本でどこに行ってお願いすればマドリードに電報を打てるんだろう。
そのほかにも外国のクラシック映画にしか登場しないセリフが載っている。
「子どもたちに挨拶のキスを。」
「チュールで飾ったクチナシのブーケの方がいいですね。」
「紳士、婦人、お嬢様、ご機嫌はいかがですか。」
こんなことを日本語を覚えたばかりの外国人がたどたどしく言うのはもはやコメディー映画を観ている気分になる。
あとは理容院で使う会話として紹介されていたのものはー。
「口ひげを整えてください。」
「二指強お願いします。」
「ヘアダイの手直しだけお願いします。」
「わたしの天然の色にしたい。」
(ナチュラルカラーで、って意味?)
「かつらを解かしてください。」
こんなフレーズがなぜ2週間で覚える日本語にチョイスされてしまったのか。
どんな人がどんなふうにしてこの本を作ったんだろう。
2週間で大急ぎで日本語を覚えて日本に行く外国人が、こんなフレーズを使う機会はくるのか。
「鈍角三角形とその内接円」。
覚えなくてもいい、むしろ使ったら失礼に当たるフレーズも。
「もっとお年かと思っていました。」
デイビッドはまもなく日本に行くけれど、日本語の本はこの本しかもっていない。
笑いながらデイビットは意気込んでいる。
「なんとかしてこの役に立たない本で日本語を習得するよ!」
がんばれ、デイビッド。
発音が難しいみたい。
ケンゾーはブランドの「KENZO」が日本に比べて外国でかなり人気なのですぐに覚えてもらえる。
いいなあ〜。
スペインで行きたかったところ。
春祭りが開かれ、闘牛やフラメンコの本場セビージャ。
ケンゾーの友人が住んでいるスペインの首都マドリード。
天才建築家、ガウディーがつくった教会サグラダファミリアのあるバルセロナ。
そして・・・。
バスク地方!
バスク国、バスク自治州とも言われ、スペイン語とは違う言語を話すバスク民族が住んでいる。
パレスチナを旅したときはバスク出身のカップルと出会って、その2人は「どこの国から来たの?」と聞かれると「スペイン」ではなく堂々と「バスクカントリー」と答えていた。
2人はバスク人の文化や言語はスペインとはまったく違うし、独立したいと言っていた。
中国に行ったらチベットに行きたいし、イスラエルに行ったらパレスチナに行かないと、なんだかその地域のことを語る資格はないなと言うか、そこに住む人たちに失礼と言うか、そんな気持ちが起こってくる。
バスク地方にはスペインの有名な観光地があるわけではないけれど、イクエとケンゾーがはずしたくなかった場所。
ということで、物価の高いヨーロッパの国は主要な観光地だけをパッパッとめぐりたかったけど、スペイン北部のバスク地方を周遊することにした。
最初の行き先は第2の都市、ビトリア。

お世話になった移民カップル、クリスティーナとベルクインが車でわざわざバスターミナルまで送ってくれて、バスでビトリアへ。
およそ2時間あまりで、運賃ひとり8.23ユーロ。
きょうもカウチサーフィンで、バスク人の家に泊めてもらうことになっている。
待ち合わせのビトリアの駅まで歩いて向かう。
オフホワイトに紺色の駅は、趣きがありながらもスタイリッシュ。

スペイン語とバスク語は似ても似つかない。
道路標識や案内板にはスペイン語とバスク語がどちらも記されている。
駅の窓口の看板。
スペイン語のVenta de billetes(切符販売)は、バスク語だとTxartelakなのかな。

きょうお世話になるのは、ウナイという名前の独身の男性。
風力発電などの自然エネルギーが専門の大学の先生。
自然エネルギーについて研究しているとあって、いつも移動手段は地球に優しい自転車のようで、大学から自転車で駆けつけてくれた。

ちなみにウナイはバスク語を使って教えるクラスとスペイン語で教えるクラスの両方をもっているんだって。
たしかにそうしないとバスク以外のスペイン出身の学生たちにはわからないもんね。
日常会話は家族や昔からの友人とはバスク語で、ほかのときはスペイン語と混ざってるんだそう。
忙しいウナイは、まだきょうの仕事は終わっていない。
すぐにまた大学に戻らないといけない。
「あのバスに乗って、途中で乗り換えてね。
住所はこれ。
あ、これが合鍵で、これが部屋の間取り図。
ここの部屋を使っていいし、ここがパソコンの部屋。
冷蔵庫にあるのは自由に食べていいからね!
わたしは9時過ぎに帰るよ。
またね!」
これまでも旅人を受け入れているウナイは、とても慣れている。
わたしたちは途中のバスの乗り換えで手間取ったけど、いつものように近くのおじさんとおばさんが教えてくれて無事にたどり着くことができた。
このバスクも含めてスペインでは、困っていたらすぐに誰かが助けてくれる。
たいていの人は英語をしゃべれないんだけど、それでも物怖じせずに外国人を助けようとしてくれるところはすてきだ。
スペイン語で話しかけられて教えられてもわからないことが多いけど、それでもとても心強いしうれしい。
ウナイの家は街の外れの新興住宅地。
最近できたばかりのような大型マンションだった。

部屋はよく片付いていてシンプルでウナイのセンスがわかる。
わたしたちには、ゲスト用の寝室を用意してくれていた。
ウナイは一人暮らしだけど、ここは日本で言うファミリー物件でリビングなんてふかふかのソファが置いてあるし、何人でも泊まれそう。

Wi-Fiもあって、キッチンも洗濯機も自由に使わせてもらえるし、ゲストハウスよりも断然居心地がいい!
わたしたちにとっては天国のような場所だ〜。

すてきなマンションでグータラしていたら、ウナイが帰ってきた。
「ご飯どうします?
ウナイはいつもどんな物を食べるの?」
「僕はいつもサラダやパンで済ませるよ。」
「じゃあ、きょうはわたしたちが何か作りますね。
スーパー開いてるかな。」
「もうこの時間は閉まってるね。
家にあるのはこの冷蔵庫の中のものと、お米と・・・。」
ありものを最大限に使わせてもらって、アボカドサラダとピラフと形の崩れた卵焼きの完成。


冷えたロゼワインで乾杯。
ウナイ手作りのベリーのお酒もいただいた。
ウナイが山で採ったベリーで作ったもので、濃いピンク色のお酒。
アルコール度数はけっこう高くて、チビリチビリと飲む。
でも、とても甘くておいしいから女性の口にも合う。
ウナイはこのビトリアから少し離れた村で生まれ育ったのだそう。
「ウナイ」っていうのは、バスク人ならではの名前なんだって。
「バスク人の名前には意味があるんだよ。
ウナイって名前の意味は
『山に住んでいて、たくさんの牛を飼っている男』
っていう意味なんだ。
つまり、カウボーイってこと。」
スペインとは違う文化をもつバスク人。
バスクの分離独立を求めてスペインでテロを行なうグループもいるけれど、そこまで過激な人はほとんどいない。
ただ、財政面に関してバスクの自治権を認めてもらい自由にできればなあと願っている人は多いみたい。
スペインの北部にあって海に面しているバスク地方には港もあり商業も盛んだし、海外からやってきている企業や工場も多い。
バスクはスペインのほかの地域よりも経済的に力をもっていて潤っている。
それなのに、いまスペインは不況まっただなか。
税金を国にたくさんもっていかれて、ほかのスペイン人たちの生活やスペインの財政を自分たちが支えていることに不満や不公平感を持っているんだって。
難しい問題だね。
居心地のいいウナイの家に2泊させてもらった。
ウナイは自転車で旅することが好きで、いろんな国に旅行に行っていてお互い旅の話をするのが楽しかった。
ルーマニアはすごく旧式の列車が走っていて、鶏を両腕に抱えて乗ってくる乗客もいて、同じヨーロッパとは思えない国で刺激的、なんて話してた。
きのうお世話になったクリスティーナの住むルーマニア。
どんな国なんだろう、いつかは行ってみたいなあ。
「何泊でもしていいよ」なんて言われていたけれど、じつはもう一人カウチサーフィンのホストがこの街で見つかっていた。
いつもはひとつの街で一家庭だけにお世話になるようにしているけど、その人は日本に興味をもってくれているようなので一泊だけお世話になることにした。
ウナイの家は最高に居心地がよかったけれど郊外だった。
今度の家は街の中心部にあるみたいで、それはそれで楽しい滞在になりそう。

待ち合わせ場所は美術館の前。
やってきたのはまたしても自転車が移動手段のデイビッド。

ちなみにデイビッドの先祖も昔からここバスクに住んでいるけど、デイビッドって名前はバスク独特の名前じゃないよね。
いまでは一般的な名前をつけることも多いのかもしれない。
デイビッドはウナイが教えている大学で、院生として生物学を学んでいる。
デイビッドは観光地となっている旧市街のど真ん中に一人暮らしをしていた。
亡くなったおじいちゃんがこの近くに昔住んでいて、ここは車庫だったんだって。
間口が狭く細長い車庫を改造して、この前まではここに自分の会社を作っていたんだそう。

病院から委託される研究を引き受けていたそうだけど、そのオフィスを再び改造して自分の自宅にしている。
細長いスペースを上手に活用して、キッチンやバスルームをつくり、2階建てのロフトをつけて実質3階建てになっている。
イクエとケンゾーには2階部分のロフトに置いたダブルベッドを貸してくれた。

デイビッドは1人でやるスポーツが好きで、自転車、サーフィン、水泳、マラソン、山登りにスキーとたくさんの趣味をもっている。

いっしょにスーパーに買い出しに行って、夕食を作ることにした。
ヨーロッパでは台所に立つと、かなりの確率でアルコールを出される。
作る段階から、もう宴は始まっている。

デイビッドが作ってくれているのはトルティージャ。
じゃがいもを入れたスペイン風オムレツ。
じゃがいもを炒めて、たっぷり油を敷いて溶いた卵を焼いていく。


ホットケーキのように上手にひっくり返して両面をこんがりと焼く。
中はふわふわがいいから、火加減が難しいかも。
そして、デイビッド特製のトルティージャの完成 ♪

デイビッドは料理も得意で、なかでもこのトルティージャは自慢の一品。
大学院の研究室で、たまに料理を持ちよって食事会をするときがあるそうなんだけど、いつもトルティージャを作っていくことにしていて、みんなから大好評なんだって!
これは楽しみ♡
わたしたちは鶏肉の煮込み。

いただきま〜す!!

おいしい〜!!!
いままでスペインに来て何度かトルティージャを食べてきたけど断然これがいちばんおいしい。
なんでジャガイモと卵でこんなにおいしんだろう。
香ばしくてふっくらしていてあつあつで、ちょうどいい塩加減。
簡単なレシピだから、自分もこんなにおいしいの作れたらいいなあ。
デイビッドもウナイと同じように、手作りのベリーのお酒をふるまってくれた。
酸味と甘み。
食前酒や食後にぴったりのお酒。

大学院で研究しているデイビッドは、海外に派遣されることが決まっている。
2か国で、最初はカナダ。
そしてそのあとが日本。
筑波大学に行くんだって。
そんなデイビッドの家には、不思議なものがある。

「このクッションなんていう意味?」
って聞かれるけど
「うん、ごめん、わかんない・・・。
えーっと、吉ってのはラッキーって意味だよ。」
「これKATANAでしょ。
刃に文字のようなものが刻んであるんだけど。」

「うん、ごめん、わかんない・・・。
漢字じゃないよ、わたしたちからするとアラビア語に見えるけど
そうじゃないしね。」
「日本に行くって言ったらさ、友だちがこの本をくれたんだ。
タイトルは『2週間で日本語を話せる』。」

「でも、この本すごく変なんだよ。
自己紹介とかあいさつとかそんな基本会話が全然載ってない。
こんな本で勉強したって、2週間で日本語を話せるようにはならないと思うんだよ。
だって、最初のページがこれだもん。」

なに!?これ?
専門的すぎるし、わたしでさえ知らない日本語めじろ押し。
「点火プラグとコイルを繋ぐケーブル」ってどこをさすの?
これは自動車工場で働く人専用の日本語教本では?
と思ったけど、そうではなさそう。
自衛隊に入隊しない限り使わないような単語も。

決してこの本は分厚いわけではない。
手のひらサイズで持ち運びやすい厚さ。
「2週間で日本語を話せる」はずなのに、こんな言葉を覚えたって使う機会はほとんどない。
しかも変なのがアルファベットで日本語を表記してあるページもあれば、アルファベットの表記がなくてただ平仮名カタカナ漢字で書いてあるだけで、外国人には読めないページもある。

「ロブスターフォーク」ってどんなフォーク?
「ビール用テラコッタ壷」って何?
日本人のわたしが聞きたい。

外国人に「ナイテイ カイロー」とか「ショーセイドー」とか「ヨク ロー」とか言われたら、あなたは理解してあげられますか?

あとはもう古すぎて今では意味が分からない人も多いんじゃないの?という単語もある。
たとえば乗り物編にあった「火夫」(機関車の火を焚く役割の人)とか「転轍手」とか。
「録画機」ってのもあるけど、外国人が「ロクガキ」って言うより普通に英語で「ビデオ」とか「カメラ」って言った方が通じるよね。
パーティー編には「夜会服」とか「クリーム状ほおべに」なんてのも。
何度も言うけど、これは百科事典みたいな本じゃなくて小さくて薄い本。
どうしてページ数も限られているのに自己紹介やあいさつじゃなくて、こんな単語をチョイスしたのか意味不明。
不思議な専門用語以外にも「こんな会話いつ使うの?」というものばかり。


いまの時代に電報って・・・。
一語いくらって・・・。
インターネットがあるこの時代に、そもそもまだ国際電報っていうシステムが存在するのかな。
日本でどこに行ってお願いすればマドリードに電報を打てるんだろう。
そのほかにも外国のクラシック映画にしか登場しないセリフが載っている。
「子どもたちに挨拶のキスを。」
「チュールで飾ったクチナシのブーケの方がいいですね。」
「紳士、婦人、お嬢様、ご機嫌はいかがですか。」
こんなことを日本語を覚えたばかりの外国人がたどたどしく言うのはもはやコメディー映画を観ている気分になる。
あとは理容院で使う会話として紹介されていたのものはー。
「口ひげを整えてください。」
「二指強お願いします。」
「ヘアダイの手直しだけお願いします。」
「わたしの天然の色にしたい。」
(ナチュラルカラーで、って意味?)
「かつらを解かしてください。」
こんなフレーズがなぜ2週間で覚える日本語にチョイスされてしまったのか。
どんな人がどんなふうにしてこの本を作ったんだろう。
2週間で大急ぎで日本語を覚えて日本に行く外国人が、こんなフレーズを使う機会はくるのか。
「鈍角三角形とその内接円」。
覚えなくてもいい、むしろ使ったら失礼に当たるフレーズも。
「もっとお年かと思っていました。」
デイビッドはまもなく日本に行くけれど、日本語の本はこの本しかもっていない。
笑いながらデイビットは意気込んでいる。
「なんとかしてこの役に立たない本で日本語を習得するよ!」
がんばれ、デイビッド。