ゲストハウスの新しい価値
イギリス旅の予定をたてていたとき、バーミンガムという地名を見て「バーミンガムかあ。バーミンガム宮殿があるからバーミンガムには行かないとね。」と真剣に夫と話していましたが、一週間後にガイドブックを見てそれは「バーミンガム宮殿」ではなくて「バッキンガム宮殿」だったと気づいたオバカ夫婦の妻イクエです。
ちなみにバッキンガム宮殿はロンドンにあります。
パレスチナ自治区の旅を続けているイクエとケンゾー。
ここに来る前はパレスチナ自治区を個人でこんな自由に旅できるとは思わなかった。
最初に訪れたジェニンの街では、毎晩やってくるイスラエル軍の銃声を聞いた。
そしてここナブルスでも銃声のようなパンパンパンという音を聞いて、おもわずびくっとなった。
ジェニンに行ってから「パンパンパン」という音に過敏に反応するようになってしまったけど、今回は花火の音。
花火が打ち上がり、若者たちが数台の車に乗ってパレスチナ国旗を振り回しながら大騒ぎして街を旋回している。
聞けば、イスラエル政府に逮捕されていたパレスチナ人の若者がきょう釈放されたので、それを祝っているのだそう。
パレスチナ自治区に滞在して1週間。
こうなったらほかの街にも足を伸ばしてみよう!

パレスチナ自治区内はバスやセルビスと呼ばれる黄色いワゴンタイプのミニバスがそれぞれの街をつないでいて、自治区内に入ってしまえば簡単にいろんな場所に移動できる。
きょう目指すのは、パレスチナ自治区の中でも要の都市ラマラ。

バスで向かう途中、いくつもの入植地が車窓から見えた。
入植地はイスラエルがつくる住宅地。
パレスチナ自治区にもかかわらず、イスラルが街をつくりイスラエル人を住まわせ事実上イスラエルの支配地域を増殖している。
同じような建物が並ぶ、新興住宅地のようなところなのですぐに入植地だとわかる。

イスラエル政府は入植地の住民には、土地代や家賃、税金などさまざまな優遇措置をとっているのでここに引っ越してくるイスラエル人は多い。

パレスチナの土地でイスラエルが勝手に開拓しているけど、圧倒的な軍事力をもつイスラエルに対してパレスチナはどうすることもできない。
入植地のまわりにはイスラエルが壁をつくり、軍を駐屯させているのでパレスチナ人は立ち入ることができない。
こうやってどんどんパレスチナが小さくなっていく。

あと10年後、パレスチナは存在しているのだろうか。
そしてパレスチナ人はどうなっているのだろうか。
バスはラマラの街に到着した。
今回の宿も予約済み。
バスターミナルのすぐそば。
右奥のビル、半円の窓が並んでいる最上階。

「Area D hostel」。
このゲストハウス、実はまだ開業前。
カウチサーフィンでどこかに泊めてもらおうとホストを探していたとき、マイクという男性から返事がきた。
「昔は旅人を家に泊めていたんだけど、いまゲストハウスの開業準備中で家に泊めてあげることはできないんだ。
でもちょうどもうすぐオープンするから、最初のお客さんとして格安で泊めてあげるよ。」
そのマイクがこちらの男性。

マイクはスイス人。
赤十字のメンバーとしてパレスチナ自治区で活動していた過去をもつ。
そのかたわら、カウチサーフィンで海外からパレスチナにやってくる旅人を家に泊めて、パレスチナの現状について教えてあげたり、難民キャンプなどを案内していた。
「もっと外国人にパレスチナに来てもらって、パレスチナのことを知ってもらいたい。
そのために居心地のいいゲストハウスをつくりたい!」
そんな夢をもつようになり、ついに実現した。
イスラエルに囲まれて存在しているパレスチナ自治区。
パレスチナ自治区で就労するのは問題はないけど、イスラエルのツーリストビザの期間は3か月。
マイクは3か月ごとに隣国のヨルダンやエジプトにいったん出て、再びイスラエルに入国するという方法でパレスチナに住み続けることにしている。
ゲストハウスはまだ開業前で、壁の塗り替えや家具のセッティングはまだ終わっていない。

それでもわたしたちが泊まれるように、ダブルルーム一室は先に作業を終わらせてくれていた。
まだできあがっていないゲストハウスだけど、将来的にはかなり居心地のいいホテルになりそう。
なんていったって、この眺めがいい!

キッチンや共用スペースは広くて、どの部屋にも大きな窓がついている。
パレスチナの街を見ながら朝からコーヒーを飲んで一日のスタート。

ラマラの街の中心地に建つモスクから、祈りの時間を知らせるアザーンが鳴り響く。

このビルを取り囲むように、市場が立つ。
野菜や果物、衣料品・・・。
威勢のいい呼び込みの声。
にぎやかな街を見下ろすと、ここはイスラエルではなく完全にアラブの国だと実感する。

パレスチナ自治政府は首都をエルサレムだと主張しているけど、実質的にはエルサレムはイスラエルが支配している。
そのためここラマラにパレスチナの政府機関がある。

初代大統領だったアラファト議長の墓もこのラマラにある。
アラファト議長はイスラエルとの和平協定を結んでノーベル賞を受賞したこともあるけど、和平は失敗に終わっている。
2004年に病院で亡くなったけど、いまでも病死か毒殺か定かではない。

アラファト議長ってパレスチナ人からしたらカリスマ的存在で、祭り上げられていてお墓も大掛かりで信者が絶えず・・・なんてイメージをしていたんだけど、とってもシンプルなお墓だった。

大きな窓ガラスがはめ込まれ、明るくて開放感はあるけれど中のスペースは狭い。
墓石があるだけ。
そして警備の人はひとり。
訪れる人も少ない。
となりには、議長府が置かれている。
塀に囲まれて中の様子は見えないけど、数人の兵士がいるくらいで厳戒態勢は敷かれていない。
ここがパレスチナの政治の中枢って感じはしない。
以前はここもイスラエル軍に包囲されていたんだって。
アラファト議長は亡くなる直前までイスラエルに軟禁されていた。

パレスチナ自治区ではやるせない気持ちになることが多いけど、ふと心がなごむ時がある。
「ああ、日本と同じだな。」って春の訪れを感じる瞬間。

最初見た時は「パレスチナにも桜?」って驚いた。
でもこれは桜じゃなくてアーモンドの花らしい。
パレスチナではいまこのアーモンドの花が街や住宅地や郊外の畑で咲き誇っている。

この花を見てるときは、日本とは距離も、置かれている立場もまったくかけ離れたパレスチナにいることを忘れてなんだかほっとする。
ケンゾーはこの花を見かけるたびに写真を撮っている。
「また?
何回撮ったら気がすむと?
どうせおんなじ写真になるよ。」
笑いながらケンゾーに言うけど、ケンゾーの気持ちもわかる。
ラマラはパレスチナ自治区のヨルダン川西岸の中心地に位置し、自治区内の中枢都市。
街いちばんの繁華街の交差点には、パレスチナでおしゃれなカフェが競って店を構えている。

その中でもっとも人気があってイケてるカフェがこれ。

見たことあるような・・・。
でも何か違和感が・・・。
文字数が多い。

スターバックス!?
じゃなくてスターズ&バックス カフェ!!
ちなみに本物のスタバは今のところパレスチナにはない。
室内は赤を基調としたおしゃれなつくり。
メニューは本物のスタバとは違っていて、飲み物よりもケバブやハンバーガーなんかの食事が充実している。
パレスチナのカフェには欠かせない水タバコも置いてあって、イクエの隣にずらりと並んでいる。

だけど「スターバックスと全然違う!」っとも言えないところもある。
スタバのようにオリジナルのマグカップやコーヒー豆を売っているコーナーもある。

イクエとケンゾーが頼んだのがこちら。
アイスカフェラテとコーヒーフローズン。

パレスチナ人はコーヒーや紅茶をつくるとき、火にかけている最中からたっぷりの砂糖を投入して、グツグツ煮て溶かす。
紅茶やコーヒーをストレートで飲むなんて考えられないみたい。
だからこれももんのすご〜く甘かった。
パレスチナで一番イケてるカフェとあってお値段は高い。
サービス料もとられて、35シェケル(約1000円)。
値段はスタバ以上。
この「スターズ&バックス」はチェーン店。
ここだけではない。
パレスチナ自治区のベツレヘムにもあったんだけど、その近くに本物のスタバを発見!?

ね!
「スターズ&バックス」の「ズ&」がなくて、ちゃんと「スターバックス」。
でもね、どうもちがうんだよね。
飲み物のメニューが5つくらいしかなくて、レジの横ではパレスチナのおかあさんが手作りしたようないびつなかたちの蒸しケーキみたいなのが売ってある。
ここでもオリジナルのマグカップが売られてたんだけど、本物のスタバと違う・・。
マークに星が5つ入ってたっけ?

やっぱりここもスタバのコピー店だということが判明。
スターズ&バックスは誰でも偽物ってわかるしパロディーみたいだから許せるとして、この店にはちょっと悪質性を感じる。
しかも「スターズ&バックス」の近くに対抗して店を構えている。
「これって本物のスタバじゃないよね。
近くに『スターズ&バックス』もあるよね。」
って店の人に聞いたら
「うん。
でも『スターズ&バックス』よりもこっちのほうがベターだ。」って言われた。
なにがベターなのか・・・。
まあ、ナブルスにはパレスチナのサンドイッチ、ファラフェルを出しているKFEもあったしね。

といってもにぎやかで雑多なパレスチナの雰囲気に、おしゃれカフェは似合わない。

市場を歩けば「ウェルカム トゥ パレスタイン!」と笑顔で迎えてくれる。
無料で野菜をくれることも多い。
泊まっているゲストハウスにはキッチンがある。
きょうも市場でもらった野菜をつかって晩ご飯をつくろう!
イスラム教徒が多いパレスチナでは、お酒が手に入りにくい。
それでもきのうの夜、ゲストハウスに泊まりながら開業の準備を手伝っているオーストラリアの女の子がビールをくれた。
だから、お酒を売ってる店はどこかにあるはず。
もしかして、あの地区にいけばあるのかも。

パレスチナ人にはキリスト教徒もいる。
ここラマラにもキリスト教地区があって、いくつか教会も建っている。
ほら、やっぱりね!
酒屋さんがたくさんある。
パレスチナワインを購入。
パレスチナでは修道院やキリスト教徒たちが昔からワインやビールを作っている。

甘みのあるワイン。
路上でおばあちゃんから買った塩っからい自家製オリーブといっしょに。
このゲストハウスには5泊した。
本格開業を控え、日に日にゲストハウスが形作られていく。

想像していたよりも苦労せずに旅ができるパレスチナ自治区。
バスが充実していて街から街への移動も楽だし、宿泊先にも困らない。
けれども、パレスチナを旅する人は少ない。
イスラエル側のホテルに泊まって、そこから日帰りでパレスチナを観光する人は多い。
でも、せっかくならパレスチナに泊まってほしいな。
この地に泊まって、ゆっくりとしたスピードで街を歩いたり、そこで夜や朝を迎えることでもっとパレスチナに親しみを感じるようになる。
現地の人と出会ったり話したりする機会も増えるし、長くいることでパレスチナの抱える問題も見えてくる。
パレスチナに行ってみたいけどちょっと不安って人も多いと思う。
でも、もしそこに居心地のいいゲストハウスがあったらー。
明るくて快適で、英語のわかるスタッフが親身に旅のアドバイスをしてくれてー。
外国人のバックパッカーがそこに集い、お互い情報交換しあったり合流していっしょに旅行することもできたりー。
スイス人のマイクがここにゲストハウスを作ることで、今よりももっと多くの外国人がラマラに訪れることになると思う。
そしてパレスチナを訪れた外国人が、パレスチナの現状を多くの人に広めたり、そしてそれが何かのムーブメントにつながる可能性だってある。
マイクは現地のパレスチナ人の青年といっしょに開業している。
マイク以外のスタッフはもちろんパレスチナ人。
わずかだけど雇用も生まれている。
パレスチナを救うために、NGOで活動したりボランティアをするという方法もあるけど、こんなふうにゲストハウスをつくるというのもひとつの手段なんじゃないかなって思った。
パレスチナの人たちにとって悲しいことは、自分たちの存在を忘れられること。
だから外国人が来たら「ウェルカム トゥ パレスタイン!」って喜んで迎えてくれる。
イスラエル政府が恐れていることは、外国人がパレスチナの実状を知ってしまうこと。
だから外国人がパレスチナを訪れることを嫌がっている。
テロでもなく、武器を持つでもなく、石を投げるでもない。
ただ、居心地のいいゲストハウスをつくるということ。

パレスチナの現状を打破するには、すごく遠回りかもしれない。
だけど、たしかにそこにはゲストハウスのもつ新しい可能性がある。
ちなみにバッキンガム宮殿はロンドンにあります。
パレスチナ自治区の旅を続けているイクエとケンゾー。
ここに来る前はパレスチナ自治区を個人でこんな自由に旅できるとは思わなかった。
最初に訪れたジェニンの街では、毎晩やってくるイスラエル軍の銃声を聞いた。
そしてここナブルスでも銃声のようなパンパンパンという音を聞いて、おもわずびくっとなった。
ジェニンに行ってから「パンパンパン」という音に過敏に反応するようになってしまったけど、今回は花火の音。
花火が打ち上がり、若者たちが数台の車に乗ってパレスチナ国旗を振り回しながら大騒ぎして街を旋回している。
聞けば、イスラエル政府に逮捕されていたパレスチナ人の若者がきょう釈放されたので、それを祝っているのだそう。
パレスチナ自治区に滞在して1週間。
こうなったらほかの街にも足を伸ばしてみよう!

パレスチナ自治区内はバスやセルビスと呼ばれる黄色いワゴンタイプのミニバスがそれぞれの街をつないでいて、自治区内に入ってしまえば簡単にいろんな場所に移動できる。
きょう目指すのは、パレスチナ自治区の中でも要の都市ラマラ。

バスで向かう途中、いくつもの入植地が車窓から見えた。
入植地はイスラエルがつくる住宅地。
パレスチナ自治区にもかかわらず、イスラルが街をつくりイスラエル人を住まわせ事実上イスラエルの支配地域を増殖している。
同じような建物が並ぶ、新興住宅地のようなところなのですぐに入植地だとわかる。

イスラエル政府は入植地の住民には、土地代や家賃、税金などさまざまな優遇措置をとっているのでここに引っ越してくるイスラエル人は多い。

パレスチナの土地でイスラエルが勝手に開拓しているけど、圧倒的な軍事力をもつイスラエルに対してパレスチナはどうすることもできない。
入植地のまわりにはイスラエルが壁をつくり、軍を駐屯させているのでパレスチナ人は立ち入ることができない。
こうやってどんどんパレスチナが小さくなっていく。

あと10年後、パレスチナは存在しているのだろうか。
そしてパレスチナ人はどうなっているのだろうか。
バスはラマラの街に到着した。
今回の宿も予約済み。
バスターミナルのすぐそば。
右奥のビル、半円の窓が並んでいる最上階。

「Area D hostel」。
このゲストハウス、実はまだ開業前。
カウチサーフィンでどこかに泊めてもらおうとホストを探していたとき、マイクという男性から返事がきた。
「昔は旅人を家に泊めていたんだけど、いまゲストハウスの開業準備中で家に泊めてあげることはできないんだ。
でもちょうどもうすぐオープンするから、最初のお客さんとして格安で泊めてあげるよ。」
そのマイクがこちらの男性。

マイクはスイス人。
赤十字のメンバーとしてパレスチナ自治区で活動していた過去をもつ。
そのかたわら、カウチサーフィンで海外からパレスチナにやってくる旅人を家に泊めて、パレスチナの現状について教えてあげたり、難民キャンプなどを案内していた。
「もっと外国人にパレスチナに来てもらって、パレスチナのことを知ってもらいたい。
そのために居心地のいいゲストハウスをつくりたい!」
そんな夢をもつようになり、ついに実現した。
イスラエルに囲まれて存在しているパレスチナ自治区。
パレスチナ自治区で就労するのは問題はないけど、イスラエルのツーリストビザの期間は3か月。
マイクは3か月ごとに隣国のヨルダンやエジプトにいったん出て、再びイスラエルに入国するという方法でパレスチナに住み続けることにしている。
ゲストハウスはまだ開業前で、壁の塗り替えや家具のセッティングはまだ終わっていない。

それでもわたしたちが泊まれるように、ダブルルーム一室は先に作業を終わらせてくれていた。
まだできあがっていないゲストハウスだけど、将来的にはかなり居心地のいいホテルになりそう。
なんていったって、この眺めがいい!

キッチンや共用スペースは広くて、どの部屋にも大きな窓がついている。
パレスチナの街を見ながら朝からコーヒーを飲んで一日のスタート。

ラマラの街の中心地に建つモスクから、祈りの時間を知らせるアザーンが鳴り響く。

このビルを取り囲むように、市場が立つ。
野菜や果物、衣料品・・・。
威勢のいい呼び込みの声。
にぎやかな街を見下ろすと、ここはイスラエルではなく完全にアラブの国だと実感する。

パレスチナ自治政府は首都をエルサレムだと主張しているけど、実質的にはエルサレムはイスラエルが支配している。
そのためここラマラにパレスチナの政府機関がある。

初代大統領だったアラファト議長の墓もこのラマラにある。
アラファト議長はイスラエルとの和平協定を結んでノーベル賞を受賞したこともあるけど、和平は失敗に終わっている。
2004年に病院で亡くなったけど、いまでも病死か毒殺か定かではない。

アラファト議長ってパレスチナ人からしたらカリスマ的存在で、祭り上げられていてお墓も大掛かりで信者が絶えず・・・なんてイメージをしていたんだけど、とってもシンプルなお墓だった。

大きな窓ガラスがはめ込まれ、明るくて開放感はあるけれど中のスペースは狭い。
墓石があるだけ。
そして警備の人はひとり。
訪れる人も少ない。
となりには、議長府が置かれている。
塀に囲まれて中の様子は見えないけど、数人の兵士がいるくらいで厳戒態勢は敷かれていない。
ここがパレスチナの政治の中枢って感じはしない。
以前はここもイスラエル軍に包囲されていたんだって。
アラファト議長は亡くなる直前までイスラエルに軟禁されていた。

パレスチナ自治区ではやるせない気持ちになることが多いけど、ふと心がなごむ時がある。
「ああ、日本と同じだな。」って春の訪れを感じる瞬間。

最初見た時は「パレスチナにも桜?」って驚いた。
でもこれは桜じゃなくてアーモンドの花らしい。
パレスチナではいまこのアーモンドの花が街や住宅地や郊外の畑で咲き誇っている。

この花を見てるときは、日本とは距離も、置かれている立場もまったくかけ離れたパレスチナにいることを忘れてなんだかほっとする。
ケンゾーはこの花を見かけるたびに写真を撮っている。
「また?
何回撮ったら気がすむと?
どうせおんなじ写真になるよ。」
笑いながらケンゾーに言うけど、ケンゾーの気持ちもわかる。
ラマラはパレスチナ自治区のヨルダン川西岸の中心地に位置し、自治区内の中枢都市。
街いちばんの繁華街の交差点には、パレスチナでおしゃれなカフェが競って店を構えている。

その中でもっとも人気があってイケてるカフェがこれ。

見たことあるような・・・。
でも何か違和感が・・・。
文字数が多い。

スターバックス!?
じゃなくてスターズ&バックス カフェ!!
ちなみに本物のスタバは今のところパレスチナにはない。
室内は赤を基調としたおしゃれなつくり。
メニューは本物のスタバとは違っていて、飲み物よりもケバブやハンバーガーなんかの食事が充実している。
パレスチナのカフェには欠かせない水タバコも置いてあって、イクエの隣にずらりと並んでいる。

だけど「スターバックスと全然違う!」っとも言えないところもある。
スタバのようにオリジナルのマグカップやコーヒー豆を売っているコーナーもある。

イクエとケンゾーが頼んだのがこちら。
アイスカフェラテとコーヒーフローズン。

パレスチナ人はコーヒーや紅茶をつくるとき、火にかけている最中からたっぷりの砂糖を投入して、グツグツ煮て溶かす。
紅茶やコーヒーをストレートで飲むなんて考えられないみたい。
だからこれももんのすご〜く甘かった。
パレスチナで一番イケてるカフェとあってお値段は高い。
サービス料もとられて、35シェケル(約1000円)。
値段はスタバ以上。
この「スターズ&バックス」はチェーン店。
ここだけではない。
パレスチナ自治区のベツレヘムにもあったんだけど、その近くに本物のスタバを発見!?

ね!
「スターズ&バックス」の「ズ&」がなくて、ちゃんと「スターバックス」。
でもね、どうもちがうんだよね。
飲み物のメニューが5つくらいしかなくて、レジの横ではパレスチナのおかあさんが手作りしたようないびつなかたちの蒸しケーキみたいなのが売ってある。
ここでもオリジナルのマグカップが売られてたんだけど、本物のスタバと違う・・。
マークに星が5つ入ってたっけ?

やっぱりここもスタバのコピー店だということが判明。
スターズ&バックスは誰でも偽物ってわかるしパロディーみたいだから許せるとして、この店にはちょっと悪質性を感じる。
しかも「スターズ&バックス」の近くに対抗して店を構えている。
「これって本物のスタバじゃないよね。
近くに『スターズ&バックス』もあるよね。」
って店の人に聞いたら
「うん。
でも『スターズ&バックス』よりもこっちのほうがベターだ。」って言われた。
なにがベターなのか・・・。
まあ、ナブルスにはパレスチナのサンドイッチ、ファラフェルを出しているKFEもあったしね。

といってもにぎやかで雑多なパレスチナの雰囲気に、おしゃれカフェは似合わない。

市場を歩けば「ウェルカム トゥ パレスタイン!」と笑顔で迎えてくれる。
無料で野菜をくれることも多い。
泊まっているゲストハウスにはキッチンがある。
きょうも市場でもらった野菜をつかって晩ご飯をつくろう!
イスラム教徒が多いパレスチナでは、お酒が手に入りにくい。
それでもきのうの夜、ゲストハウスに泊まりながら開業の準備を手伝っているオーストラリアの女の子がビールをくれた。
だから、お酒を売ってる店はどこかにあるはず。
もしかして、あの地区にいけばあるのかも。

パレスチナ人にはキリスト教徒もいる。
ここラマラにもキリスト教地区があって、いくつか教会も建っている。
ほら、やっぱりね!
酒屋さんがたくさんある。
パレスチナワインを購入。
パレスチナでは修道院やキリスト教徒たちが昔からワインやビールを作っている。

甘みのあるワイン。
路上でおばあちゃんから買った塩っからい自家製オリーブといっしょに。
このゲストハウスには5泊した。
本格開業を控え、日に日にゲストハウスが形作られていく。

想像していたよりも苦労せずに旅ができるパレスチナ自治区。
バスが充実していて街から街への移動も楽だし、宿泊先にも困らない。
けれども、パレスチナを旅する人は少ない。
イスラエル側のホテルに泊まって、そこから日帰りでパレスチナを観光する人は多い。
でも、せっかくならパレスチナに泊まってほしいな。
この地に泊まって、ゆっくりとしたスピードで街を歩いたり、そこで夜や朝を迎えることでもっとパレスチナに親しみを感じるようになる。
現地の人と出会ったり話したりする機会も増えるし、長くいることでパレスチナの抱える問題も見えてくる。
パレスチナに行ってみたいけどちょっと不安って人も多いと思う。
でも、もしそこに居心地のいいゲストハウスがあったらー。
明るくて快適で、英語のわかるスタッフが親身に旅のアドバイスをしてくれてー。
外国人のバックパッカーがそこに集い、お互い情報交換しあったり合流していっしょに旅行することもできたりー。
スイス人のマイクがここにゲストハウスを作ることで、今よりももっと多くの外国人がラマラに訪れることになると思う。
そしてパレスチナを訪れた外国人が、パレスチナの現状を多くの人に広めたり、そしてそれが何かのムーブメントにつながる可能性だってある。
マイクは現地のパレスチナ人の青年といっしょに開業している。
マイク以外のスタッフはもちろんパレスチナ人。
わずかだけど雇用も生まれている。
パレスチナを救うために、NGOで活動したりボランティアをするという方法もあるけど、こんなふうにゲストハウスをつくるというのもひとつの手段なんじゃないかなって思った。
パレスチナの人たちにとって悲しいことは、自分たちの存在を忘れられること。
だから外国人が来たら「ウェルカム トゥ パレスタイン!」って喜んで迎えてくれる。
イスラエル政府が恐れていることは、外国人がパレスチナの実状を知ってしまうこと。
だから外国人がパレスチナを訪れることを嫌がっている。
テロでもなく、武器を持つでもなく、石を投げるでもない。
ただ、居心地のいいゲストハウスをつくるということ。

パレスチナの現状を打破するには、すごく遠回りかもしれない。
だけど、たしかにそこにはゲストハウスのもつ新しい可能性がある。
【旅 info.】
Area D hostel
ラマラのバスターミナルからすぐ、野菜市場の上に建つビルの最上階。
ビルの下の階には衣料品店や雑貨店が入っている。
部屋はドミトリーやダブルルーム、広いアパートメントタイプなどあり。
長期滞在割引制度あり。
キッチン、Wi-Fiつき。
難民キャンプをまわるツアーなども企画している。
http://ramallahhostel.com
Area D hostel

ラマラのバスターミナルからすぐ、野菜市場の上に建つビルの最上階。
ビルの下の階には衣料品店や雑貨店が入っている。
部屋はドミトリーやダブルルーム、広いアパートメントタイプなどあり。
長期滞在割引制度あり。
キッチン、Wi-Fiつき。
難民キャンプをまわるツアーなども企画している。
http://ramallahhostel.com