オトナの日本人宿「南旅館」
姉に「写真に若さがない。化粧をしたほうがいい。」と言われているイクエです。
それね、自分でも写真見るたび思うとよね。
世界一周してる人ってのは圧倒的に若い人が多くて、「世界一周ランキング」に参加してるブログをチェックしているのも若い旅人が多い。
まして夫婦旅なんて興味を持つ人は少なく、ただでさえ「アラフォー アラサー夫婦」というハードルがあるのに、見かけもおばちゃんやったら、ますます読者数が減るやん!
(それでもランキングのクリックしてくれる人の割合が多くてうれしいです!いつもありがとうございます!!)
さて、そんな若さのないふたりがキルギスの首都・ビシュケクで日本人宿に泊まろうとしている。
日本人宿っていうのは、客がほとんど日本人の宿。
旅人にとっては日本人宿はオアシスのような場所で、日本語でいっぱいしゃべれるし、気兼ねなくワイワイ盛り上がれるし、じゃあちょっといっしょにこれから旅しようかって感じで行動をともにすることもできる。
でも、イクエとケンゾー。
これまであまり日本人宿を利用したことがない。
インドに3か月いたのに、インドでも日本人宿に泊まってないもんね。
「みんなで海行こう!で、バーベキュー大会だあ!スイカ割りもしちゃうぞ〜」っていう有名な日本人宿があるんだけど、興味すらもたなかった。
たぶん、いくつか理由があるんだけど、一番の理由はふたりとも口にしないけどわかっている。
それは・・・。
年だから

若い旅人と同じテンションで盛り上がれないのよーーー。
これはね、ほんとうに残念だけど悲しい事実。
6年くらい前にネパールでホーリー祭(色かけ祭)に参加したときのテンションと去年インドでホーリーに参加したときのテンションって全然違ったもんね。
それでね、ふたりとも不安に思ってることがあって・・・。
「スペインのトマティーナ(トマト投げ祭)楽しめるかなあ
」ってこと。
世界一周してる人のほとんどは旅のビッグイベントとしてトマティーナ参加を位置づけてるんだけど、わたしたちどんどんトマティーナの参加意欲が無くなってきていて、いちおう来年参加しようってことにしてるけど、それもどうなることやら・・・。
話が脱線してしまった。
で、日本人宿の話。
ビシュケクには有名な日本人宿がふたつある。
ひとつはサクラゲストハウス。
ここは日本人がオーナー。
使い勝手のいいゲストハウスで日本人以外のお客さんも多い。
そしてもうひとつが南旅館。
「南旅館」って、いかにも日本人の女将さんがでてきそうな感じだけどオーナーはキルギス人。
泊まっているのはほぼ日本人。
サクラゲストハウスのほうが場所もいいし、宿自体も新しくて広い。
いっぽうの南旅館は中心地からは少し離れているし、「旅館」って言いながら団地の一室で古くて狭い。
でも、南旅館のほうが宿泊費は安い。
さて、ふたりが選んだのは・・・。
南旅館!
モンゴルで出会った、キルギスのことに詳しい日本人Mさんが「南旅館はハマればなかなか抜けだせません」と言っていた。
Mさんはケンゾーと同い年。
アラフォーが勧める日本人宿に泊まってみようじゃないの。
南旅館の場所を説明するのはとても難しい。
地図で示すとここ↓


バスターミナルから132番のマルシュに乗って、こんなところで降りる。
目印になるものがない。
オアシスにたどり着くって大変ね。

この街路樹の向こう側が団地街。
同じ建物が密集していて迷子になりそうになる。
でも、マルシュを降りてからそんなに歩かなくていい。

こんなところに「旅館」なんてあるんだろうか。
そこにはただ、キルギスの人たちの生活空間があるだけ。

「旅館」の看板はいっさい出てないのであしからず。
この建物(といっても、ぜんぶ同じに見えるけど)の向かって左から2番目の階段を上っていく。
「旅館」の玄関がこれ。

勇気を出してピンポンを押す。
するとそこには「旅館」。
というかふつうのアパートの部屋が広がっている!
キッチン、トイレ、バスルーム、居間、そして3つの部屋。
3DK、日本の団地よりも室内は広い。
3つの部屋のうち、2つがドミトリーとして使用されている。
(初日はドミが2部屋とも満室だったので、イクエは3つ目の「家人の部屋」でおばあちゃんと寝た。)

旅館に入ったとたん、居間でまったりしている日本人の旅人たちと目が合う。
最初の感想。
「年齢層、たかっ!」
学生のときは、旅先で出会った日本人同士「いま何歳?」ってお互い気兼ねなく聞きあえたんだけど、いいオトナはもうそんなヤボなこと聞かない。
というか、自分も聞かれたくないし。
で、あくまで推定年齢だけど
アラフィフ 1名
アラフォー 3名
アラサー 2名
若者 3名
イクエはヤボなことを心の中でつぶやいた。
「みなさん、いい年してこんなところで・・・
何やってるんですか!?」
でも、その2秒後に思った。
「あ、自分たちもか・・・。」
中央アジアの旅人は年齢層高いって聞いてたけど、ほんとだ。
そうだよね、中央アジアといえば「旧ソ連」「シルクロード」「自然」。
ここに若者が惹かれる要素がない。
かつてアメリカと並んで世界の二大巨頭のひとつだった旧ソ連。
だけどいま大学で、第二外国語としてロシア語を専攻してる学生なんて何割くらいいるんだろう。
さて、そんなことに思いを巡らしていたのもつかの間。
イクエとケンゾーが中に入って5分もしないうちに、「ピンポーン」となった。
「またお客さん?」と思ったら、ドアの外に立っていたのはキルギスの腐敗警察!
そして旅人というか、おじさんたちがこっちをじっと見て聞いてきた。
「警察に尾けられました?」
は!?
いや、わたしたちがここに着いたときにはすでに1階の入口にいて住民に何やら事情聴取みたいなことをしていた。
なんか、私たちが招かれざる客を連れてきたかたちになってしまった。
悪いことしてないのに、おじさんたちに(イクエとケンゾーもおばさん、おじさんだけど)渋くて低い声で「尾けられました?」なんて聞かれると、いけないことをしてしまった気持ちになる。
南旅館は営業許可をもらっているんだけど、腐敗警察の手に掛かれば、いちゃもんをつけられて賄賂を請求なんてことはありえる。
キルギスでは、できるだけ警察との接触を避ける、というのが掟。
旅人もよく街角で警察から職務質問を受けるんだけど、難癖をつけられて賄賂を払うはめになったり、財布から気づかぬうちにお札を抜き取られることがよくある。
警察は宿泊客を外に呼び出して、全員のパスポートを没収した。
みんなに悪いところはない。不備もない。
だから毅然とした態度を取ろう。
オトナの旅人たちは、(心は動じてたかもしれないけど)動じずにただ、自分たちよりも若い警察にパスポートだけを渡してことの成り行きを見守った。
2人の警察は、パスポートの見方もよくわからず、キルギスの入国スタンプがどれかもわからず、ベトナムやインドなどほかの国のビザをジーッと見ている。
スタンプの日付の「13」のインクがにじんでいて、「これは「18」だ。日付がビザとあわない!」なんてことも言ってるようだったけど、みんな何も言わずにじーっと警察の言動を見守るだけ。
警察はこう思っていたようだ。
「日本人が不法入国して、この団地の狭い部屋で隠れて生活し、不法労働してるんじゃないか」
日本人がキルギスで出稼ぎって・・・。
南旅館の家人のおばあちゃんが「この人たちは、ツーリストなのよ。キルギスでトレッキングしたい、イシククルに行きたいってことでわざわざ日本から来てくれているんだから。」って一生懸命説明してる。
でも確かにいい年のオトナたちが、こんな団地に泊まってこぎたない格好で放浪しながら旅をするってのはなかなか理解できないだろうな。
「ツーリスト」よりも「不法労働者」のほうがしっくりくるよ。
警察は日本大使館にも電話をし、警察の上司まで駆けつけ、わたしたちこぎたないオトナが「出稼ぎ」ではなく「旅」をしているのだということがわかったようで、金も巻き上げず解放してくれた。
たぶん、オトナたちは警察に外に連れ出され、パスポートを取られたことにドキドキしていた。
でもオトナだから、このドキドキを表すことも、武勇伝風におもしろおかしく語ることもしない。
そして、もうここに数か月は滞在してるであろう古株のF氏が、何ごともなかったかのように淡々と低い声でこう言った。
「きょう、メシどうしますか?」

南旅館のシェフ、F氏を先頭に夕方市場に買い出しに出かけるのが日課のようだ。
横一列になっておしゃべりしながら歩くことはしない。
程よい距離感を保ちながら歩くのが、オトナの流儀。
「ねえ、何買う? これ、買ってみる!?」ってはしゃぎながらの食材選びはしない。
食材選びはいっさいシェフに任せる。
後ろに控え、店の人に商品を渡された瞬間に「あ、持ちますよ」とさらりと手を差し伸べるのが、オトナの作法。

「ねえ、これどうする? 焼いちゃう?」
「うーん、わかんなーい。適当でいいよねえ♡」
って感じで、みんなでわいわい盛り上がり、なかなか調理が進まないってことはオトナたちにはない。
みんな、自分の役割を悟り、せっせと持ち場の仕事をこなす。
オトナたちは組織の一員として、黙々と職務をまっとうすることに慣れてますから。


目立つ人。おもしろい人。自己主張が強い人。盛り上げ上手の人。
そんな人が輪の中心にいて、みんながついて行く、という感じではない。
オトナたちがついて行く人はー
信頼できる人。
F氏の考えるメニューと料理法に間違いはない。
レパートリーは豊富で、味は絶品。
毎食50ソム(約100円)でおいしいものをたらふく食べられる。




「は〜い♡ みんなグラスを持って。かんぱーい ♪」と、オトナたちはならない。
落ち着いた声で。
「じゃあ、いただきましょうか。」
「ええ。いただきます。」
酒は飲みたい人が飲めばいい。
それぞれ自分の好きな銘柄のビールでしっぽりと。

旅人がこんなふうに集まれば、「旅の自慢話」みたいなものが始まる。
「俺はどこどこに行った。いやあ、あそこはスゴかった。」
「いや、そこよりもあそこの国のほうがスゴかったよ。
わたしのときなんて・・・。」
でも、オトナの旅人たちでそんな話を率先してする人はいない。
なぜならー
旅が自慢になんてならないことを悟っているから。
(社会人脱落者のイクエはたまに宿で出会う若者にこう言っている。
「1年間旅するよりも、1年間社会人やったほうがよっぽど成長するよ。」)
食卓で旅自慢は始まらないけど、こんなふうな話の展開にはなる。
「ロシアの田舎ってどうなんですかね。」
「マイナス40度くらいになりますよ。むかし、住んでたんで。」
「何してたんですか?」
「まあ、いろいろあって・・・。」
「アゼルバイジャンって宿代高いですよね。
家賃も高いんでしょうね。」
「高いから、前に住んでたときはカスピ海の港にずっと停留している壊れかけの船で1年生活してました。」
「1年も船に住んでたんですか。」
「まあ、いろいろあったんです。」
「いろいろって何!?」というヤボなことは聞かない。
世の中には「いろいろ」としか表現できないことがあるのをオトナは知っている。
たいていどこの日本人宿も居心地がいいので旅人は沈没する。
沈没しながら何をするか。
みんなで旅談義に花を咲かせたり、みんなで連れ立って近場に遊びにいったり、トランプやゲームをしたり、みんなでパソコンやDVDで映画を見たり。
でも、南旅館ではそういうことはほとんどしない。
(あ、一度みんなでパソコンで映画鑑賞をした。
映画と言ってもドキュメンタリー。
キルギスについて研究しているイスラエル人がなぜか南旅館に滞在していて、彼が「みんなで鑑賞しよう」と言い出した。
外国人の監督がつくった寿司職人のじいちゃんのドキュメンタリーでかなりマニアックで真面目なもの。)
じゃあ、南旅館で何するの?
読書ができる!

ほかの日本人宿でもこれまでの旅人が置いていった漫画とか軽い小説とかあるけど、南旅館の本棚はちょっとほかのところとは違う。

歴史、哲学、政治・・・。
読み応えたっぷりの本たち。
イクエは大学のとき政治学科にいたんだけど、学生のころの教科書やゼミで使いそうな本ばっかり。
気になる本をじっくり読んでいくと、ここに1年くらいはいられるんじゃないかな。

この居心地のいい南旅館には難点もある。
それは、窓の外に洗濯ヒモがあって洗濯を干すときに注意しないと、洗濯物を下に落っことしてしまうこと。
下の階のベランダの屋根に落ちてしまうので、下の階の住人に拾ってもらわないといけない。
「すみませ〜ん♡ 洗濯物落としちゃいました。拾ってもらえませんかあ〜」
いいオトナはそんなことは頼まない。
相手に迷惑がかかるというのを知っているから。
じゃあ、どうするか。

黙々と・・・

それ用に常備されている釣り竿を駆使して釣り上げる。
そんなオトナの日本人宿に滞在しているイクエとケンゾー。
ビシュケクではあるミッションがあった。
それは・・・。
ロシアのビザを取ること!
日本以外でロシアビザを取るのは難しいと言われている。
だけどタジキスタンで出会ったスイス人夫婦が「ビシュケクでなら最大10日間のトランジットビザが簡単に取れるよー!」と言っていたので、トライすることにした。
一日目に行った時は、ビザセクションが閉まっていた。
だけど担当職員の電話番号を教えてくれたから電話で確認すると、いけそうな返事。
そして、つぎの日再び訪れた。

結果は・・・。
ムリだった!
トランジットビザの申請には
・パスポート(コピー)
・証明写真
・入国出国のときの交通手段の確保(航空券やバス、電車のチケット)
・キルギスのビザのコピー
が必要。
何がひっかかったかと言うとキルギスのビザ。
日本人はキルギスがビザなしで入れるという優遇措置がなんとロシアビザの取得の際に足かせになってしまった。
ロシア大使館の職員は、キルギスの外務省の下部組織みたいなところに行ってビザを取ってきなさいっていうから、そこに行ったんだけどだめだった。
その組織の職員が言うには「キルギスのビザはキルギスじゃなくてキルギス以外の国でしか取れないから、お隣のカザフスタンまで行ってそこのキルギス大使館で取るしかない」っだって。
まあ、そうだよね。ふつう。
ビザってその国に入る前に取るものだもんね・・・。
いくつかの旅行代理店をはしごしたけど、やっぱりキルギスのビザが必要って返事。
でも、代理店のスタッフが言うには「2か月前まではビザなしの人はビザのコピーなくても取れたよ」っていうから、ロシア大使館の職員が人事異動で代わってしまって、融通がきかなくなったのかもしれない。
イクエもケンゾーもかなりショックを受けた。
だって、航空券もバスも予約してしまった。
どうしようー。
ここでねばるか、あきらめるか、次の訪問国で再チャレンジするか。
どうしたらいいのかわからなくて、このまま南旅館で待機しようかって気になった。
でも、ふと思った。
ビザ取りに振り回されていはいけない!!
中央アジアではビザ取りのために足止めをくらったり、ビザ取りの作業のために旅程が大きくくるったり、ビザ待ちで時間が足りなくなって行きたい場所にいけなくなったという旅人がたくさんいる。
そうならないために、ビザのことは置いといてとりあえず今いるキルギスを満喫することにした。
南旅館を去り、美しい高原の湖、イシククルを10日かけてまわった。
そして、南旅館に戻って休息。
オトナらしくゆっくりとした一日を過ごす。
エネルギーを補給したら、今度は自然公園へ行って3日間のトレッキング。
オトナだからすぐ疲れるので、また南旅館に戻ってボーッとする。
だから、イクエとケンゾーにとっては南旅館あってのキルギスなのだ。
南旅館の近くには、本物の味を知るオトナにぴったりの生ビール屋さんだってある。
こうやってペットボトルに入れてくれる。
1.5リットルで120ソム(約240円)。


酒だけではない。
オトナの旅人はたまに甘いものも食べたくなる。
食べたいのは、スナック菓子なんてチープなものではない。
そう、こんなスイーツが食べたくなる。

ベリーのタルト30ソム(約60円。じゅうぶんチープ)
このベリーのタルト、アラフォーおやじたちの胃袋をわしづかみだったよ!
毎日誰かが無言で食べている。
そんなオトナの日本人宿を切り盛りしているのは、ずいぶんオトナの・・・
ばあちゃん!

本当はばあちゃんの息子がやってるんだけど、息子はばあちゃんに丸投げしてほとんど宿に姿を見せない。
しかもよく、アフガニスタンの米軍基地に出稼ぎに行っている。
ばあちゃんは英語が話せない。
でも、大丈夫。
宿泊者には必ずしっかりもののオトナがいる。
誰かがロシア語話せるし、トラブルの回避術も心得ているし、宿泊者からのお金の徴収だってオトナの客がばあちゃんの代わりにやってあげている。
さあ、あなたもこんなオトナの世界をのぞいてみたくなったでしょう?
でも、場所がわかりにくいし、目印もなくて言葉で説明しにくいのが難点。
だけど、オトナなら、どうにかして自力でたどり着けるはず!
(警察に尾行されないように気をつけるのも、オトナのたしなみね。)
それね、自分でも写真見るたび思うとよね。
世界一周してる人ってのは圧倒的に若い人が多くて、「世界一周ランキング」に参加してるブログをチェックしているのも若い旅人が多い。
まして夫婦旅なんて興味を持つ人は少なく、ただでさえ「アラフォー アラサー夫婦」というハードルがあるのに、見かけもおばちゃんやったら、ますます読者数が減るやん!
(それでもランキングのクリックしてくれる人の割合が多くてうれしいです!いつもありがとうございます!!)
さて、そんな若さのないふたりがキルギスの首都・ビシュケクで日本人宿に泊まろうとしている。
日本人宿っていうのは、客がほとんど日本人の宿。
旅人にとっては日本人宿はオアシスのような場所で、日本語でいっぱいしゃべれるし、気兼ねなくワイワイ盛り上がれるし、じゃあちょっといっしょにこれから旅しようかって感じで行動をともにすることもできる。
でも、イクエとケンゾー。
これまであまり日本人宿を利用したことがない。
インドに3か月いたのに、インドでも日本人宿に泊まってないもんね。
「みんなで海行こう!で、バーベキュー大会だあ!スイカ割りもしちゃうぞ〜」っていう有名な日本人宿があるんだけど、興味すらもたなかった。
たぶん、いくつか理由があるんだけど、一番の理由はふたりとも口にしないけどわかっている。
それは・・・。
年だから


若い旅人と同じテンションで盛り上がれないのよーーー。
これはね、ほんとうに残念だけど悲しい事実。
6年くらい前にネパールでホーリー祭(色かけ祭)に参加したときのテンションと去年インドでホーリーに参加したときのテンションって全然違ったもんね。
それでね、ふたりとも不安に思ってることがあって・・・。
「スペインのトマティーナ(トマト投げ祭)楽しめるかなあ

世界一周してる人のほとんどは旅のビッグイベントとしてトマティーナ参加を位置づけてるんだけど、わたしたちどんどんトマティーナの参加意欲が無くなってきていて、いちおう来年参加しようってことにしてるけど、それもどうなることやら・・・。
話が脱線してしまった。
で、日本人宿の話。
ビシュケクには有名な日本人宿がふたつある。
ひとつはサクラゲストハウス。
ここは日本人がオーナー。
使い勝手のいいゲストハウスで日本人以外のお客さんも多い。
そしてもうひとつが南旅館。
「南旅館」って、いかにも日本人の女将さんがでてきそうな感じだけどオーナーはキルギス人。
泊まっているのはほぼ日本人。
サクラゲストハウスのほうが場所もいいし、宿自体も新しくて広い。
いっぽうの南旅館は中心地からは少し離れているし、「旅館」って言いながら団地の一室で古くて狭い。
でも、南旅館のほうが宿泊費は安い。
さて、ふたりが選んだのは・・・。
南旅館!
モンゴルで出会った、キルギスのことに詳しい日本人Mさんが「南旅館はハマればなかなか抜けだせません」と言っていた。
Mさんはケンゾーと同い年。
アラフォーが勧める日本人宿に泊まってみようじゃないの。
南旅館の場所を説明するのはとても難しい。
地図で示すとここ↓


バスターミナルから132番のマルシュに乗って、こんなところで降りる。
目印になるものがない。
オアシスにたどり着くって大変ね。

この街路樹の向こう側が団地街。
同じ建物が密集していて迷子になりそうになる。
でも、マルシュを降りてからそんなに歩かなくていい。

こんなところに「旅館」なんてあるんだろうか。
そこにはただ、キルギスの人たちの生活空間があるだけ。

「旅館」の看板はいっさい出てないのであしからず。
この建物(といっても、ぜんぶ同じに見えるけど)の向かって左から2番目の階段を上っていく。
「旅館」の玄関がこれ。

勇気を出してピンポンを押す。
するとそこには「旅館」。
というかふつうのアパートの部屋が広がっている!
キッチン、トイレ、バスルーム、居間、そして3つの部屋。
3DK、日本の団地よりも室内は広い。
3つの部屋のうち、2つがドミトリーとして使用されている。
(初日はドミが2部屋とも満室だったので、イクエは3つ目の「家人の部屋」でおばあちゃんと寝た。)

旅館に入ったとたん、居間でまったりしている日本人の旅人たちと目が合う。
最初の感想。
「年齢層、たかっ!」
学生のときは、旅先で出会った日本人同士「いま何歳?」ってお互い気兼ねなく聞きあえたんだけど、いいオトナはもうそんなヤボなこと聞かない。
というか、自分も聞かれたくないし。
で、あくまで推定年齢だけど
アラフィフ 1名
アラフォー 3名
アラサー 2名
若者 3名
イクエはヤボなことを心の中でつぶやいた。
「みなさん、いい年してこんなところで・・・
何やってるんですか!?」
でも、その2秒後に思った。
「あ、自分たちもか・・・。」
中央アジアの旅人は年齢層高いって聞いてたけど、ほんとだ。
そうだよね、中央アジアといえば「旧ソ連」「シルクロード」「自然」。
ここに若者が惹かれる要素がない。
かつてアメリカと並んで世界の二大巨頭のひとつだった旧ソ連。
だけどいま大学で、第二外国語としてロシア語を専攻してる学生なんて何割くらいいるんだろう。
さて、そんなことに思いを巡らしていたのもつかの間。
イクエとケンゾーが中に入って5分もしないうちに、「ピンポーン」となった。
「またお客さん?」と思ったら、ドアの外に立っていたのはキルギスの腐敗警察!
そして旅人というか、おじさんたちがこっちをじっと見て聞いてきた。
「警察に尾けられました?」
は!?
いや、わたしたちがここに着いたときにはすでに1階の入口にいて住民に何やら事情聴取みたいなことをしていた。
なんか、私たちが招かれざる客を連れてきたかたちになってしまった。
悪いことしてないのに、おじさんたちに(イクエとケンゾーもおばさん、おじさんだけど)渋くて低い声で「尾けられました?」なんて聞かれると、いけないことをしてしまった気持ちになる。
南旅館は営業許可をもらっているんだけど、腐敗警察の手に掛かれば、いちゃもんをつけられて賄賂を請求なんてことはありえる。
キルギスでは、できるだけ警察との接触を避ける、というのが掟。
旅人もよく街角で警察から職務質問を受けるんだけど、難癖をつけられて賄賂を払うはめになったり、財布から気づかぬうちにお札を抜き取られることがよくある。
警察は宿泊客を外に呼び出して、全員のパスポートを没収した。
みんなに悪いところはない。不備もない。
だから毅然とした態度を取ろう。
オトナの旅人たちは、(心は動じてたかもしれないけど)動じずにただ、自分たちよりも若い警察にパスポートだけを渡してことの成り行きを見守った。
2人の警察は、パスポートの見方もよくわからず、キルギスの入国スタンプがどれかもわからず、ベトナムやインドなどほかの国のビザをジーッと見ている。
スタンプの日付の「13」のインクがにじんでいて、「これは「18」だ。日付がビザとあわない!」なんてことも言ってるようだったけど、みんな何も言わずにじーっと警察の言動を見守るだけ。
警察はこう思っていたようだ。
「日本人が不法入国して、この団地の狭い部屋で隠れて生活し、不法労働してるんじゃないか」
日本人がキルギスで出稼ぎって・・・。
南旅館の家人のおばあちゃんが「この人たちは、ツーリストなのよ。キルギスでトレッキングしたい、イシククルに行きたいってことでわざわざ日本から来てくれているんだから。」って一生懸命説明してる。
でも確かにいい年のオトナたちが、こんな団地に泊まってこぎたない格好で放浪しながら旅をするってのはなかなか理解できないだろうな。
「ツーリスト」よりも「不法労働者」のほうがしっくりくるよ。
警察は日本大使館にも電話をし、警察の上司まで駆けつけ、わたしたちこぎたないオトナが「出稼ぎ」ではなく「旅」をしているのだということがわかったようで、金も巻き上げず解放してくれた。
たぶん、オトナたちは警察に外に連れ出され、パスポートを取られたことにドキドキしていた。
でもオトナだから、このドキドキを表すことも、武勇伝風におもしろおかしく語ることもしない。
そして、もうここに数か月は滞在してるであろう古株のF氏が、何ごともなかったかのように淡々と低い声でこう言った。
「きょう、メシどうしますか?」

南旅館のシェフ、F氏を先頭に夕方市場に買い出しに出かけるのが日課のようだ。
横一列になっておしゃべりしながら歩くことはしない。
程よい距離感を保ちながら歩くのが、オトナの流儀。
「ねえ、何買う? これ、買ってみる!?」ってはしゃぎながらの食材選びはしない。
食材選びはいっさいシェフに任せる。
後ろに控え、店の人に商品を渡された瞬間に「あ、持ちますよ」とさらりと手を差し伸べるのが、オトナの作法。

「ねえ、これどうする? 焼いちゃう?」
「うーん、わかんなーい。適当でいいよねえ♡」
って感じで、みんなでわいわい盛り上がり、なかなか調理が進まないってことはオトナたちにはない。
みんな、自分の役割を悟り、せっせと持ち場の仕事をこなす。
オトナたちは組織の一員として、黙々と職務をまっとうすることに慣れてますから。


目立つ人。おもしろい人。自己主張が強い人。盛り上げ上手の人。
そんな人が輪の中心にいて、みんながついて行く、という感じではない。
オトナたちがついて行く人はー
信頼できる人。
F氏の考えるメニューと料理法に間違いはない。
レパートリーは豊富で、味は絶品。
毎食50ソム(約100円)でおいしいものをたらふく食べられる。




「は〜い♡ みんなグラスを持って。かんぱーい ♪」と、オトナたちはならない。
落ち着いた声で。
「じゃあ、いただきましょうか。」
「ええ。いただきます。」
酒は飲みたい人が飲めばいい。
それぞれ自分の好きな銘柄のビールでしっぽりと。

旅人がこんなふうに集まれば、「旅の自慢話」みたいなものが始まる。
「俺はどこどこに行った。いやあ、あそこはスゴかった。」
「いや、そこよりもあそこの国のほうがスゴかったよ。
わたしのときなんて・・・。」
でも、オトナの旅人たちでそんな話を率先してする人はいない。
なぜならー
旅が自慢になんてならないことを悟っているから。
(社会人脱落者のイクエはたまに宿で出会う若者にこう言っている。
「1年間旅するよりも、1年間社会人やったほうがよっぽど成長するよ。」)
食卓で旅自慢は始まらないけど、こんなふうな話の展開にはなる。
「ロシアの田舎ってどうなんですかね。」
「マイナス40度くらいになりますよ。むかし、住んでたんで。」
「何してたんですか?」
「まあ、いろいろあって・・・。」
「アゼルバイジャンって宿代高いですよね。
家賃も高いんでしょうね。」
「高いから、前に住んでたときはカスピ海の港にずっと停留している壊れかけの船で1年生活してました。」
「1年も船に住んでたんですか。」
「まあ、いろいろあったんです。」
「いろいろって何!?」というヤボなことは聞かない。
世の中には「いろいろ」としか表現できないことがあるのをオトナは知っている。
たいていどこの日本人宿も居心地がいいので旅人は沈没する。
沈没しながら何をするか。
みんなで旅談義に花を咲かせたり、みんなで連れ立って近場に遊びにいったり、トランプやゲームをしたり、みんなでパソコンやDVDで映画を見たり。
でも、南旅館ではそういうことはほとんどしない。
(あ、一度みんなでパソコンで映画鑑賞をした。
映画と言ってもドキュメンタリー。
キルギスについて研究しているイスラエル人がなぜか南旅館に滞在していて、彼が「みんなで鑑賞しよう」と言い出した。
外国人の監督がつくった寿司職人のじいちゃんのドキュメンタリーでかなりマニアックで真面目なもの。)
じゃあ、南旅館で何するの?
読書ができる!

ほかの日本人宿でもこれまでの旅人が置いていった漫画とか軽い小説とかあるけど、南旅館の本棚はちょっとほかのところとは違う。

歴史、哲学、政治・・・。
読み応えたっぷりの本たち。
イクエは大学のとき政治学科にいたんだけど、学生のころの教科書やゼミで使いそうな本ばっかり。
気になる本をじっくり読んでいくと、ここに1年くらいはいられるんじゃないかな。

この居心地のいい南旅館には難点もある。
それは、窓の外に洗濯ヒモがあって洗濯を干すときに注意しないと、洗濯物を下に落っことしてしまうこと。
下の階のベランダの屋根に落ちてしまうので、下の階の住人に拾ってもらわないといけない。
「すみませ〜ん♡ 洗濯物落としちゃいました。拾ってもらえませんかあ〜」
いいオトナはそんなことは頼まない。
相手に迷惑がかかるというのを知っているから。
じゃあ、どうするか。

黙々と・・・

それ用に常備されている釣り竿を駆使して釣り上げる。
そんなオトナの日本人宿に滞在しているイクエとケンゾー。
ビシュケクではあるミッションがあった。
それは・・・。
ロシアのビザを取ること!
日本以外でロシアビザを取るのは難しいと言われている。
だけどタジキスタンで出会ったスイス人夫婦が「ビシュケクでなら最大10日間のトランジットビザが簡単に取れるよー!」と言っていたので、トライすることにした。
一日目に行った時は、ビザセクションが閉まっていた。
だけど担当職員の電話番号を教えてくれたから電話で確認すると、いけそうな返事。
そして、つぎの日再び訪れた。

結果は・・・。
ムリだった!
トランジットビザの申請には
・パスポート(コピー)
・証明写真
・入国出国のときの交通手段の確保(航空券やバス、電車のチケット)
・キルギスのビザのコピー
が必要。
何がひっかかったかと言うとキルギスのビザ。
日本人はキルギスがビザなしで入れるという優遇措置がなんとロシアビザの取得の際に足かせになってしまった。
ロシア大使館の職員は、キルギスの外務省の下部組織みたいなところに行ってビザを取ってきなさいっていうから、そこに行ったんだけどだめだった。
その組織の職員が言うには「キルギスのビザはキルギスじゃなくてキルギス以外の国でしか取れないから、お隣のカザフスタンまで行ってそこのキルギス大使館で取るしかない」っだって。
まあ、そうだよね。ふつう。
ビザってその国に入る前に取るものだもんね・・・。
いくつかの旅行代理店をはしごしたけど、やっぱりキルギスのビザが必要って返事。
でも、代理店のスタッフが言うには「2か月前まではビザなしの人はビザのコピーなくても取れたよ」っていうから、ロシア大使館の職員が人事異動で代わってしまって、融通がきかなくなったのかもしれない。
イクエもケンゾーもかなりショックを受けた。
だって、航空券もバスも予約してしまった。
どうしようー。
ここでねばるか、あきらめるか、次の訪問国で再チャレンジするか。
どうしたらいいのかわからなくて、このまま南旅館で待機しようかって気になった。
でも、ふと思った。
ビザ取りに振り回されていはいけない!!
中央アジアではビザ取りのために足止めをくらったり、ビザ取りの作業のために旅程が大きくくるったり、ビザ待ちで時間が足りなくなって行きたい場所にいけなくなったという旅人がたくさんいる。
そうならないために、ビザのことは置いといてとりあえず今いるキルギスを満喫することにした。
南旅館を去り、美しい高原の湖、イシククルを10日かけてまわった。
そして、南旅館に戻って休息。
オトナらしくゆっくりとした一日を過ごす。
エネルギーを補給したら、今度は自然公園へ行って3日間のトレッキング。
オトナだからすぐ疲れるので、また南旅館に戻ってボーッとする。
だから、イクエとケンゾーにとっては南旅館あってのキルギスなのだ。
南旅館の近くには、本物の味を知るオトナにぴったりの生ビール屋さんだってある。
こうやってペットボトルに入れてくれる。
1.5リットルで120ソム(約240円)。


酒だけではない。
オトナの旅人はたまに甘いものも食べたくなる。
食べたいのは、スナック菓子なんてチープなものではない。
そう、こんなスイーツが食べたくなる。

ベリーのタルト30ソム(約60円。じゅうぶんチープ)
このベリーのタルト、アラフォーおやじたちの胃袋をわしづかみだったよ!
毎日誰かが無言で食べている。
そんなオトナの日本人宿を切り盛りしているのは、ずいぶんオトナの・・・
ばあちゃん!

本当はばあちゃんの息子がやってるんだけど、息子はばあちゃんに丸投げしてほとんど宿に姿を見せない。
しかもよく、アフガニスタンの米軍基地に出稼ぎに行っている。
ばあちゃんは英語が話せない。
でも、大丈夫。
宿泊者には必ずしっかりもののオトナがいる。
誰かがロシア語話せるし、トラブルの回避術も心得ているし、宿泊者からのお金の徴収だってオトナの客がばあちゃんの代わりにやってあげている。
さあ、あなたもこんなオトナの世界をのぞいてみたくなったでしょう?
でも、場所がわかりにくいし、目印もなくて言葉で説明しにくいのが難点。
だけど、オトナなら、どうにかして自力でたどり着けるはず!
(警察に尾行されないように気をつけるのも、オトナのたしなみね。)
【旅 info.】
南旅館(サウスゲストハウス)
ドミトリーのみ。1泊250ソム。
ホットシャワー、キッチン、Wi-Fi付き。
31番Bビルディング、2号棟4階の22号室。
宿のオーナーで日本語が話せるヌルダン氏は不在のことが多い。
南旅館(サウスゲストハウス)

ドミトリーのみ。1泊250ソム。
ホットシャワー、キッチン、Wi-Fi付き。
31番Bビルディング、2号棟4階の22号室。
宿のオーナーで日本語が話せるヌルダン氏は不在のことが多い。