ついまた過ちを・・・ 後悔しても遅い
購買意欲をセーブしたままのイクエです。
旅をしていて物を買うと荷物が増えるので、全然購買意欲がわかなかった。
それに必要最小限のもので生活できる。
日本にいると誘惑がいっぱい。
かわいいもの、便利グッズ、新製品、お手頃価格のもの・・・。
いろんな商品があふれているけれど、断捨離精神でこれからもやっていこう。
ホンジュラスのティグレ島に滞在しているイクエとケンゾー。
ここでやることといえば、集落を散策する、海鮮を食べる、ビーチで遊ぶ、ティグレ山に登る。
きょうは朝から夕方までこの島を満喫しよう。
とりあえず、最初に山に登って、午後からビーチに行こうかな。
山に登ると言っても、この島全体が山のようなもの。
対岸の本土から見たティグレ島がこれ。

ティグレ山の標高はおよそ800メートル。
もちろん死火山。
島には、一周する道路がぐるっと通っていてその道沿いに集落ができている。
島の中心が山なので、島にいればどこからでも山が見える。

どこからでも登れるのかなと思っていたら、登山口と登山道があるらしい。
宿のお父さんとお母さんが地図を指しながら教えてくれた。
登山口はアマパラ集落のさらに北側。
ここから6キロくらい。
地図にはもうひとつ、この宿から近い場所にも登山口が記されている。
でもそこは木が生い茂っていて急だし、道もないようなものなので、アマパラ集落の先の登山口から登ったほうがいいのだそう。
島の移動はトゥクトゥク(バイクタクシー)。
宿から登山口までは1台50レンピラス(約275円)。
ちなみに、宿から4キロくらい先のアマパラまでは1台30レンピラス(約165円)。
トゥクトゥクのドライバーに「島を周遊しない?案内するよ」と何度か声をかけられたので、トゥクトゥクを半日チャーターして、見晴しのいい場所やビーチに連れていってもらって観光するのもいいと思う。
1000円くらいでやってくれるんじゃないかな。

島を一周している道路は、意外とアップダウンが激しい。
なので歩くとそれなりに疲れる。
登山口まで6キロくらいだから歩こうかとも考えたけど、トゥクトゥクに乗って正解。
風を受けながら、気持ちよく登山口に到着。
「ここだよ。
その道を登っていけばいいから。」
「グラシアス(ありがとう)。」

強い日射し。
風が吹くと、砂ぼこりの舞う道。
キラキラと光る木々の葉。
咲き誇る真っ赤な花。
せわしなく走る鶏。
フェンスに干された洗濯物。
この空気、懐かしい。
親しみがわく。
やっぱりここは東南アジアみたい。

海に近い、低地の舗装された道路沿いの民家はコンクリート造りの大きな家が多かった。
奥に行けば行くほど、トタン屋根の簡素な家が目立つ。
この島にも格差があるのかもしれない。
電気は通っていても、水道がない家庭もあるようだった。

山に向かって進んでいく。
どんどん坂は急になり、建物が少なくなっていき、木々が鬱蒼としてくる。
道が2つに分かれていた。
道幅が大きい方の道を選び、歩いていったら行き止まり。
フェンスが行く手を阻んでいる。
その奥には建物。
そしてわたしたちに向かって吠える犬。
すると、フェンスの向こうに人影が見えた。
「すみませーん!
山頂に行きたいんですが、どっちから行けばいいですか?」
「山頂なら、こっちじゃなくて下の道だよ。
ところで、君たち日本人!?」
「そうです。
日本から来ました。
ツーリストです。」
「うわー!
日本人なんだ!
またここに来てよ。
ごはんを作ってあげるから。
チキンは好き?
ご馳走するよ。」
嬉しそうに男性が言った。
出会ったばかりの怪しい東洋人ふたり。
会ってふたこと目で食事に招待するなんて、バングラデシュやイランみたい。
わたしたちは帰国日が迫っているし、このあとエル・サルバドルで知り合いと会う約束をしている。
あしたにはこの島を出ないといけない。
もったいないなあ。
この島にあと3日以上滞在したら、お友だちができそうなんだけど。
パナマで出会った日本人の旅人が言っていた。
彼はわたしたちとは逆、アメリカから南米へと南下していた。
「ニカラグアも良かったですよぉ。
とくにカリブ海側。
歩いていると現地の人がたくさん集まってきて声をかけてくれるんです。
旅行者が珍しいみたいで。
楽しかったなあ。」
その人はビザが切れるギリギリ、3か月間旅したと言っていた。
ほんとうはもっと長く滞在したかったとも。
きっと中米の国々には、素敵な場所がたくさんあって外国人を温かく迎え入れてくれるところがいっぱいあるんだと思う。

生い茂る木々が途切れるところがあった。
視界がひらけ、太平洋とそこに浮かぶ島々が一望できた。
こちらから見える景色は、わたしたちの宿のちょうど裏側。
時間があれば、一周20キロ弱の島を回りたいと思っていた。
その余裕はなさそうだから、こんな風に島をぐるっと見られてラッキー♪
水をちょっとしか持ってこなかったことを大後悔。
500ミリのペットボトルの水はすでに半分なくなっている。
このトレッキングは思いのほかハード。
急斜面が続く。
木陰で日射しが遮られるところは多いけど、それでも「ふぅふぅ」言いながら歩いていくと汗が噴き出し、喉が渇く。

「サルぐらいいるかな。」
「ナマケモノは?」
「さすがに、こんな暑い場所にはおらんよ。」
「でも、コスタリカも海の近くにおったやん。」
「まあねえ・・・。
虎がおるかも!」
「虎!?」
「だって、この島の名前は『イスラ・デル・ティグレ』『虎島』やん。」
「こんな島におるわけないやん。」
「じゃあ、昔はおったのかなあ。」
そんな会話をしていたわたしたちの前に姿を現すのは、鮮やかな蝶と鳥くらいだった。

見えにくいけど、体は濃い緑でくちばしは黄色く、お腹は真っ赤。
尾っぽがシマシマのかわいい鳥。

すぐに着くと思っていた山頂は、けっこう遠かった。
しょっちゅう足を止めて休憩したくなる。
溜め息をつき、腰に手を当てて、立ち止まる。
その度にケンゾーから励まされる。
「どうした?
だいじょうぶ?おばちゃん。
おばちゃん、がんばって!」
「それはこっちのセリフ。
おじいちゃん。」
「はあ?
もう、おばあちゃんバテバテやん。」
立ち止まらず、30歩進もう。
向こうの木の下まで一気に歩こう。
心の中で小刻みに目標を決め、疲れた体にムチ打って歩いていく。
登りはじめて2時間半。
実際には3時間半くらいに感じた。
ようやく頂上らしきところに到着。

きつかったけど、眺めは最高!
こんなところ誰も来ない。
そう思ってケンゾーが立ちションしていたら、上から鎌を持った男性が降りてきた。
「頂上はもっと上だよ。
ここを上がったところ。」
なんで鎌を持ってこんなところにいるのか、ちょっと警戒したけれど、男性は山頂にある鉄塔を管理しているらしい。
鉄塔の下に小屋があって男性はそこに住んでいた。
その近くには、大昔の火口と思われるクレーターのような窪地もあった。
木々の間から凪ぎの太平洋が見える。

「あっちがニカラグア、向こうがエル・サルバドルだよ。」
実はこのティグレ島はホンジュラス、ニカラグア、エル・サルバドルと3か国を眺められる貴重な場所でもある。

世界には3か国以上の国々が見渡せるポイントがいくつかある。
南米では、ロライマ山の山頂でベネズエラ・ブラジル・ガイアナの3か国の国境地点に立ったし、イグアスの滝の近くでは、川を挟んでパラグアイ・ブラジル・アルゼンチンを見渡せた。
真っ青な海と、ニカラグアとエル・サルバドルの大地が見える。

3か国の景色を見ながら、しばらく木陰で体を休めた。
「行く?」
「どっち行く?」
「・・・うん。」
ここでわたしたちは選ぶべきでない道を取ってしまった。
これはいつものわたしたちの悪い癖。
簡単に言えば歩いているとき、普通のルートから外れて近道っぽいところにあえて入り、結局時間がかかって大変だということ。
わたしたちは今朝、宿で聞いた話を思い出していた。
登山口はふたつある。
宿から6キロほどのところと、宿の近くに。
宿の近くはほとんど使われることがなく、木が生い茂っていて道もあってないようなもの。
だからそのルートは行かないほうがいい。
わたしたちが休憩していたその場所に、そのルートらしきものがあった。
腰の高さほどの草が生い茂っている斜面に、人が通ったような細い筋がジグザグについている。
そして、その方角はわたしたちの宿の近く。
GPSの地図で確認すると、このルートのような気がする。
「もうひとつの登山道ってこれだよね。」
「行ってみる?」
「でも先のほうはどうなっとるのかな。」
「その辺まで、様子見に行ってみてもいいけど。」
登山道と思っていたものはだんだん狭くなり、そして何度も枝分かれしていった。
「どっちだと思う?」
「こっちかなあ・・・。」
「だめだ。
戻らないかん。」
「でも、こっちも道ないよ。」
もう道なんてなかった。
ここまで来て後戻りはできない。
前を見つめて、ため息が出る。
後ろを振り返り、肩を落とす。
身動きが取れない。
進み方も戻り方もわからない。
「行くしかないよね。」
草や木を払いのけながら進む。

地面と思って一歩踏み出すと、実は草や枝がかぶさっているだけで1メートルくらい深いところに地面があって、ずぼっとなったりする。
足を痛めそうで怖い。
枝を持ってクモの巣を払いのけながら進む。
喉が渇くけど、水はもうない。
どうしてもっと持ってこなかったんだろう。
後悔ばかり。
登りは2時間半で着いたのに、もうすでにその時間を過ぎている。
登ってきた道をそのまま下山していたら、今ごろ着いていただろうに。
ここでどっちかがケガしたら、どうすればいいだろう。
ヘビにでも噛まれたら。
ケモノに襲われたら。
コツコツコツコツ。
奇妙な音がする。
「なんだろう。」
「どこから?」
幸運にも、ヘビでもケモノでもなかった。
頭の尖ったキツツキだった。

下山のときの写真は、撮る余裕がなくてこれだけしかない。
だからじゅうぶんに伝えられないんだけど、ほんとうにしんどかった。
どれだけしんどいかというと、ケンゾーがしゃがみこんでしまった。
子どもが駄々をこねるみたいに立ち上がろうとしない。
「ケンゾー、どうしたと?」
あきらめたような顔で、ぼーっとして返事をしない。
「がんばろう。」
「・・・。」
「ほら、もうちょっとだよ。
ね! がんばろう。」
「・・・うん。」
「だいじょうぶ。
あと30分がんばってみよう。」
わたしは男の子の母になった気持ちで、ケンゾーを励ましてなんとか立たせた。
あのときのことをケンゾーにあとで聞いたらこう言った。
「もう嫌だと思った。
もう無理、いいやって。」
「でも、あんなところでしゃがみこんでどうするつもりだったと?」
「イクエが助けを呼びに、下に行ってくれるかなと思って。」
なんちゅう、だんなでしょう!
41歳のくせに。
3時間して、トウモロコシ畑が見えた。
ふたりともホッとした。
なんとか下界に戻れた。
そこからさらに30分くらい歩き、ようやく島の道路に出た。
もうビーチに行く気力も体力もない。
真っ先にビールで喉を潤したかったけど、すぐに手に入るものならもうなんでもよかった。
2リットルのコーラを買い、ごくごく飲み合った。
わたしたちはこんな失敗をもう何度もやっている。
「急がば回れ」と言うのに、つい近そうな方を選び、苦労して後悔する。
学習能力がない。
でも、10回に4回くらいは成功する。
「近道してよかったね」ってなる。
だから、失敗から学ばずに味を占めて、過ちを繰り返すのかもしれない。
10回のうちの6回の失敗よりも、4回の成功のほうが記憶に残るのかも。
そうは言っても、失敗の確率のほうが高い。
今回だって・・・。
ん?
これって失敗したのかな。
時間はかかったけど、結果的には無事に到着したから「成功」と言えば「成功」?
こうやって、わたしたちはまた同じことを繰り返す宿命にあるのだった。
旅をしていて物を買うと荷物が増えるので、全然購買意欲がわかなかった。
それに必要最小限のもので生活できる。
日本にいると誘惑がいっぱい。
かわいいもの、便利グッズ、新製品、お手頃価格のもの・・・。
いろんな商品があふれているけれど、断捨離精神でこれからもやっていこう。
ホンジュラスのティグレ島に滞在しているイクエとケンゾー。
ここでやることといえば、集落を散策する、海鮮を食べる、ビーチで遊ぶ、ティグレ山に登る。
きょうは朝から夕方までこの島を満喫しよう。
とりあえず、最初に山に登って、午後からビーチに行こうかな。
山に登ると言っても、この島全体が山のようなもの。
対岸の本土から見たティグレ島がこれ。

ティグレ山の標高はおよそ800メートル。
もちろん死火山。
島には、一周する道路がぐるっと通っていてその道沿いに集落ができている。
島の中心が山なので、島にいればどこからでも山が見える。

どこからでも登れるのかなと思っていたら、登山口と登山道があるらしい。
宿のお父さんとお母さんが地図を指しながら教えてくれた。
登山口はアマパラ集落のさらに北側。
ここから6キロくらい。
地図にはもうひとつ、この宿から近い場所にも登山口が記されている。
でもそこは木が生い茂っていて急だし、道もないようなものなので、アマパラ集落の先の登山口から登ったほうがいいのだそう。
島の移動はトゥクトゥク(バイクタクシー)。
宿から登山口までは1台50レンピラス(約275円)。
ちなみに、宿から4キロくらい先のアマパラまでは1台30レンピラス(約165円)。
トゥクトゥクのドライバーに「島を周遊しない?案内するよ」と何度か声をかけられたので、トゥクトゥクを半日チャーターして、見晴しのいい場所やビーチに連れていってもらって観光するのもいいと思う。
1000円くらいでやってくれるんじゃないかな。

島を一周している道路は、意外とアップダウンが激しい。
なので歩くとそれなりに疲れる。
登山口まで6キロくらいだから歩こうかとも考えたけど、トゥクトゥクに乗って正解。
風を受けながら、気持ちよく登山口に到着。
「ここだよ。
その道を登っていけばいいから。」
「グラシアス(ありがとう)。」

強い日射し。
風が吹くと、砂ぼこりの舞う道。
キラキラと光る木々の葉。
咲き誇る真っ赤な花。
せわしなく走る鶏。
フェンスに干された洗濯物。
この空気、懐かしい。
親しみがわく。
やっぱりここは東南アジアみたい。

海に近い、低地の舗装された道路沿いの民家はコンクリート造りの大きな家が多かった。
奥に行けば行くほど、トタン屋根の簡素な家が目立つ。
この島にも格差があるのかもしれない。
電気は通っていても、水道がない家庭もあるようだった。

山に向かって進んでいく。
どんどん坂は急になり、建物が少なくなっていき、木々が鬱蒼としてくる。
道が2つに分かれていた。
道幅が大きい方の道を選び、歩いていったら行き止まり。
フェンスが行く手を阻んでいる。
その奥には建物。
そしてわたしたちに向かって吠える犬。
すると、フェンスの向こうに人影が見えた。
「すみませーん!
山頂に行きたいんですが、どっちから行けばいいですか?」
「山頂なら、こっちじゃなくて下の道だよ。
ところで、君たち日本人!?」
「そうです。
日本から来ました。
ツーリストです。」
「うわー!
日本人なんだ!
またここに来てよ。
ごはんを作ってあげるから。
チキンは好き?
ご馳走するよ。」
嬉しそうに男性が言った。
出会ったばかりの怪しい東洋人ふたり。
会ってふたこと目で食事に招待するなんて、バングラデシュやイランみたい。
わたしたちは帰国日が迫っているし、このあとエル・サルバドルで知り合いと会う約束をしている。
あしたにはこの島を出ないといけない。
もったいないなあ。
この島にあと3日以上滞在したら、お友だちができそうなんだけど。
パナマで出会った日本人の旅人が言っていた。
彼はわたしたちとは逆、アメリカから南米へと南下していた。
「ニカラグアも良かったですよぉ。
とくにカリブ海側。
歩いていると現地の人がたくさん集まってきて声をかけてくれるんです。
旅行者が珍しいみたいで。
楽しかったなあ。」
その人はビザが切れるギリギリ、3か月間旅したと言っていた。
ほんとうはもっと長く滞在したかったとも。
きっと中米の国々には、素敵な場所がたくさんあって外国人を温かく迎え入れてくれるところがいっぱいあるんだと思う。

生い茂る木々が途切れるところがあった。
視界がひらけ、太平洋とそこに浮かぶ島々が一望できた。
こちらから見える景色は、わたしたちの宿のちょうど裏側。
時間があれば、一周20キロ弱の島を回りたいと思っていた。
その余裕はなさそうだから、こんな風に島をぐるっと見られてラッキー♪
水をちょっとしか持ってこなかったことを大後悔。
500ミリのペットボトルの水はすでに半分なくなっている。
このトレッキングは思いのほかハード。
急斜面が続く。
木陰で日射しが遮られるところは多いけど、それでも「ふぅふぅ」言いながら歩いていくと汗が噴き出し、喉が渇く。

「サルぐらいいるかな。」
「ナマケモノは?」
「さすがに、こんな暑い場所にはおらんよ。」
「でも、コスタリカも海の近くにおったやん。」
「まあねえ・・・。
虎がおるかも!」
「虎!?」
「だって、この島の名前は『イスラ・デル・ティグレ』『虎島』やん。」
「こんな島におるわけないやん。」
「じゃあ、昔はおったのかなあ。」
そんな会話をしていたわたしたちの前に姿を現すのは、鮮やかな蝶と鳥くらいだった。

見えにくいけど、体は濃い緑でくちばしは黄色く、お腹は真っ赤。
尾っぽがシマシマのかわいい鳥。

すぐに着くと思っていた山頂は、けっこう遠かった。
しょっちゅう足を止めて休憩したくなる。
溜め息をつき、腰に手を当てて、立ち止まる。
その度にケンゾーから励まされる。
「どうした?
だいじょうぶ?おばちゃん。
おばちゃん、がんばって!」
「それはこっちのセリフ。
おじいちゃん。」
「はあ?
もう、おばあちゃんバテバテやん。」
立ち止まらず、30歩進もう。
向こうの木の下まで一気に歩こう。
心の中で小刻みに目標を決め、疲れた体にムチ打って歩いていく。
登りはじめて2時間半。
実際には3時間半くらいに感じた。
ようやく頂上らしきところに到着。

きつかったけど、眺めは最高!
こんなところ誰も来ない。
そう思ってケンゾーが立ちションしていたら、上から鎌を持った男性が降りてきた。
「頂上はもっと上だよ。
ここを上がったところ。」
なんで鎌を持ってこんなところにいるのか、ちょっと警戒したけれど、男性は山頂にある鉄塔を管理しているらしい。
鉄塔の下に小屋があって男性はそこに住んでいた。
その近くには、大昔の火口と思われるクレーターのような窪地もあった。
木々の間から凪ぎの太平洋が見える。

「あっちがニカラグア、向こうがエル・サルバドルだよ。」
実はこのティグレ島はホンジュラス、ニカラグア、エル・サルバドルと3か国を眺められる貴重な場所でもある。

世界には3か国以上の国々が見渡せるポイントがいくつかある。
南米では、ロライマ山の山頂でベネズエラ・ブラジル・ガイアナの3か国の国境地点に立ったし、イグアスの滝の近くでは、川を挟んでパラグアイ・ブラジル・アルゼンチンを見渡せた。
真っ青な海と、ニカラグアとエル・サルバドルの大地が見える。

3か国の景色を見ながら、しばらく木陰で体を休めた。
「行く?」
「どっち行く?」
「・・・うん。」
ここでわたしたちは選ぶべきでない道を取ってしまった。
これはいつものわたしたちの悪い癖。
簡単に言えば歩いているとき、普通のルートから外れて近道っぽいところにあえて入り、結局時間がかかって大変だということ。
わたしたちは今朝、宿で聞いた話を思い出していた。
登山口はふたつある。
宿から6キロほどのところと、宿の近くに。
宿の近くはほとんど使われることがなく、木が生い茂っていて道もあってないようなもの。
だからそのルートは行かないほうがいい。
わたしたちが休憩していたその場所に、そのルートらしきものがあった。
腰の高さほどの草が生い茂っている斜面に、人が通ったような細い筋がジグザグについている。
そして、その方角はわたしたちの宿の近く。
GPSの地図で確認すると、このルートのような気がする。
「もうひとつの登山道ってこれだよね。」
「行ってみる?」
「でも先のほうはどうなっとるのかな。」
「その辺まで、様子見に行ってみてもいいけど。」
登山道と思っていたものはだんだん狭くなり、そして何度も枝分かれしていった。
「どっちだと思う?」
「こっちかなあ・・・。」
「だめだ。
戻らないかん。」
「でも、こっちも道ないよ。」
もう道なんてなかった。
ここまで来て後戻りはできない。
前を見つめて、ため息が出る。
後ろを振り返り、肩を落とす。
身動きが取れない。
進み方も戻り方もわからない。
「行くしかないよね。」
草や木を払いのけながら進む。

地面と思って一歩踏み出すと、実は草や枝がかぶさっているだけで1メートルくらい深いところに地面があって、ずぼっとなったりする。
足を痛めそうで怖い。
枝を持ってクモの巣を払いのけながら進む。
喉が渇くけど、水はもうない。
どうしてもっと持ってこなかったんだろう。
後悔ばかり。
登りは2時間半で着いたのに、もうすでにその時間を過ぎている。
登ってきた道をそのまま下山していたら、今ごろ着いていただろうに。
ここでどっちかがケガしたら、どうすればいいだろう。
ヘビにでも噛まれたら。
ケモノに襲われたら。
コツコツコツコツ。
奇妙な音がする。
「なんだろう。」
「どこから?」
幸運にも、ヘビでもケモノでもなかった。
頭の尖ったキツツキだった。

下山のときの写真は、撮る余裕がなくてこれだけしかない。
だからじゅうぶんに伝えられないんだけど、ほんとうにしんどかった。
どれだけしんどいかというと、ケンゾーがしゃがみこんでしまった。
子どもが駄々をこねるみたいに立ち上がろうとしない。
「ケンゾー、どうしたと?」
あきらめたような顔で、ぼーっとして返事をしない。
「がんばろう。」
「・・・。」
「ほら、もうちょっとだよ。
ね! がんばろう。」
「・・・うん。」
「だいじょうぶ。
あと30分がんばってみよう。」
わたしは男の子の母になった気持ちで、ケンゾーを励ましてなんとか立たせた。
あのときのことをケンゾーにあとで聞いたらこう言った。
「もう嫌だと思った。
もう無理、いいやって。」
「でも、あんなところでしゃがみこんでどうするつもりだったと?」
「イクエが助けを呼びに、下に行ってくれるかなと思って。」
なんちゅう、だんなでしょう!
41歳のくせに。
3時間して、トウモロコシ畑が見えた。
ふたりともホッとした。
なんとか下界に戻れた。
そこからさらに30分くらい歩き、ようやく島の道路に出た。
もうビーチに行く気力も体力もない。
真っ先にビールで喉を潤したかったけど、すぐに手に入るものならもうなんでもよかった。
2リットルのコーラを買い、ごくごく飲み合った。
わたしたちはこんな失敗をもう何度もやっている。
「急がば回れ」と言うのに、つい近そうな方を選び、苦労して後悔する。
学習能力がない。
でも、10回に4回くらいは成功する。
「近道してよかったね」ってなる。
だから、失敗から学ばずに味を占めて、過ちを繰り返すのかもしれない。
10回のうちの6回の失敗よりも、4回の成功のほうが記憶に残るのかも。
そうは言っても、失敗の確率のほうが高い。
今回だって・・・。
ん?
これって失敗したのかな。
時間はかかったけど、結果的には無事に到着したから「成功」と言えば「成功」?
こうやって、わたしたちはまた同じことを繰り返す宿命にあるのだった。