便器の横のお尻を洗うホースで、髪を洗ったイクエです。
頭にスカーフ巻いてないといけないイランでは、みんなが通る廊下の共用の洗面台で女が髪を洗うなんてことできないからしょうがないね。
街で「ジャポーン!?」と声をかけられ、まったく言葉が通じないのにイラン人の家庭におじゃましてしまったイクエとケンゾー。
言葉は通じないけど、なんとかなるもんだね。
この家庭で、もう何杯目のお茶をごちそうになってるだろう。

ちなみにこの家にはフェリーバ(38歳)と二人息子のアーラッシュ(21歳)とプイヨン(20歳)が住んでいる。
フェリーバは17歳で結婚、子どもを生んでいる。
日本の感覚からするとかなり早い。
フェリーバの夫はぶどう農園で働いている。
ぶどうが実るこの季節、大黒柱のお父さんはぶどうが採れる別の街に住み込んで収穫作業をしているので今は不在。
ここオルーミーイェを含め、トルコに近いイラン北部は人種としてはトルコ人。
フェリーバたちによると、祖先が昔トルコからここに移り住んだのだそう。
だからみんなトルコ語を話す。
トルコ語がわからないイクエとケンゾー。
英語がわからないフェリーバたち。
お互い言葉がわからないから、会話に時間がかかる。
お父さんがぶどう農園で働いているっていう情報も、フェリーバが紙にぶどうの絵を描いて必死に説明してくれたからわかった。
「伝えあう」「分かりあう」というのは、言葉以上にその意志が重要なのかもしれない。
息子たちのおばあちゃんは、フェリーバの妹といっしょに別の家に住んでるんだけど、この家に遊びにきてくれた。
イクエってけっして「おじさんキラー」じゃないんだけど「おばあちゃん、おばさんキラー」なんだよね。
自分で言うのも何なんだけど、年上の女性に好かれる。

娘みたいに思われるのかな。
ちなみに、この家庭でもそうだしほかの女性にも言われたんだけど、イランでは前髪が短いのはとっても珍しいらしい。
「アハハハ! なんで前髪がこんなんなのー!?」と言われる。
イランではみんなスカーフで髪を隠すから前髪も長くしている。
イランで前髪が短いのはスカーフをしない小さな女の子くらい。
だから前髪が短いと「かわいらしい」と映るみたい。
イランを旅する女性! 前髪短くしていくとみんなにウケますよ!
ちなみに外では絶対巻いとかないといけないスカーフだけど、家では外すのOKだし半袖着るのもOK。
厳格な家庭だとNGみたいだけど。
このおばあちゃん、スカートがまくれて足が見えた。
ストッキングの下に湿布みたいなのがペタペタ貼ってある。
足が痛いのかなあ。
「おばあちゃん、足痛いの? 大丈夫?」ってさすろうとしたら、湿布じゃなくて紙幣だった!
ひざ下ストッキングを財布代りにしてたんだ!
ストッキングの中には何枚ものお札がねじ込んである。
イクエとケンゾーがおばあちゃんの隠し財布を発見してびっくりしたら、娘や孫も大爆笑。
そんなかわいいおばあちゃん、イクエとケンゾーに子どもがいないというのがわかるとものすごく同情してくれた。
バングラデシュでもそうだったんだけど、イスラムの国で結婚してるのに子どもがいないというのはかなり驚かれる。
「女は子どもを産むべし!」だからね。
この1年旅をしてきて「どうして子どもを産まないの!?」という質問は100回以上されていると思う。
「そのうちね」とか「日本で働いてて忙しかったから」とか「いま旅行中だから」と言ってももちろん納得してもらえない。
(出産のことだけでなく「早く結婚すべし」という教えもあるから、独身女性が結婚もせずひとりでイスラム圏を旅行するのはかなり奇異に思われるみたい。)
この家のおばあちゃんは、イクエのお腹をさすりながら「インシャー・アッラー(神がお望みなら)」と何度も唱えている。
「大丈夫、神が授けてくれる」
そんなふうに慰められてるみたい。
ありがとう、おばあちゃん。
おばあちゃんは心配してくれてるのに、本人たちがそんなに真剣に考えず旅行なんてやってるから、なんだか申し訳ない気持ちになる。
おばあちゃんが家に帰るというので、最後にみんなで記念撮影。

おばあちゃんにプレゼントを、と思って記念に五円玉にリボンをかけたものを渡した。
するとおばあちゃんは「お金なんて受け取れない!」と突き返す。
「記念だから」「お守り代りに」って説明してもおばあちゃんにとっては「お金をもらう」というのは気が引けるみたい。
「たったの五円の価値しかないんだから」と家族といっしょに説得。
するとおばあちゃんは五円玉を受け取ったんだけど、五円とは比べものにならないくらいの額のイラン紙幣をイクエの手に押し付けてきた。
「いやいやいや、困る困る。
そんなことなら五円玉を返してもらったほうがいい。」
そう言って今度はイクエたちがおばあちゃんにイラン紙幣を押し付けるんだけど受け取ってくれない。
そこでケンゾーが強行手段に出た。
おばあちゃんのひざ下ストッキングに紙幣をねじ込んだ!
家族みんなで大笑い。
おばあちゃんも、顔を赤らめて照れ笑い。
五円玉を胸につけて、家へと帰っていった。
しばらくするとおばあちゃんからフェリーバに電話がかかってきた。
電話を代わって「チョクサオール(ありがとう)」と伝える。
おばあちゃんは「インシャー アッラー」と何度も何度も繰り返す。
フェリーバがお腹を指しながら「おばあちゃんは赤ちゃんができるように祈ってるんだよ」と言った。
わ、わるいねえ、おばあちゃん。
が、がんばるよ。
電話を切ってしばらくしたら、チャイムが鳴った。
どんなお客さんかと思ったら・・・。
息を切らしながらやってきた、おばあちゃん!!

わざわざ家からイクエのために干しアンズと、ブレスレット、それにこのハデハデの赤いヒョウ柄シャツとタンクトップを持ってきてくれてプレゼントしてくれた。
ありがとうおばあちゃん!
きっとおばあちゃんの勝負服として大事にタンスにしまってたんだね。
びっくりするぐらい派手だけど、がんばって使わせてもらうよ!!
それからはフェリーバの妹とお友達もやってきた。
挨拶しあって3人で外出。

言葉がわからないからどこに向かっているかわからないんだけど、やってきたのはショッピングビル。
その一室のお店の鍵をフェリーバが開けた。
ここは、フェリーバのお店らしい。

家にも編みかけの小物や毛糸があったし、フェリーバはここで手作りのものを売っているみたい。

そしてなぜか既製品の下着も売っている。
いきなりイクエの胸を服の上からモミッ。
売り物のブラジャーからイクエサイズのものをプレゼントしてくれた。
(あとからつけたら結局ブカブカだった。
イラン人は豊満なのね。
ケンゾーには「そのブラジャー、意味をなしてない」って言われてるけど使ってるよ!)
そして派手なパンツももらった。
スカーフで頭を隠して、暑くても長袖のコートですっぽり体を覆っているイラン人女性たち。
でも下着はセクシーなのがお好みなのかも。

フェリーバのお店をあとにして、タクシーに乗り、街を歩き、ある場所を目指す。
(タクシー代はフェリーバが払ってくれた。申し訳ない。)
そうそう。
イランの街には、こういうのもいるよ。

向かった先と言うのは・・・。

ん?
なんでバックパック持ってるの?
なんとチェックインしていたホテルをフェリーバの(強引な)勧めにより出て、きょうはフェリーバの家にホームステイすることに。
家でお昼ご飯をごちそうになったあたりから、フェリーバの引き止め作戦は始まって、寝室のベッドにイクエとケンゾーを座らせて「ここで今から昼寝をしなさい」とか「ちょっとお風呂に入ってゆっくりしなさい」と言われ続けていた。
さらに「もう、きょうはここに泊まりなさい!」と説得され・・・。
最初はお断りしてたんだけど、最後は根負けしてホームステイすることに。
ホテルの部屋にすでに荷物を置いていたし、泊まらないにしてももう夕方だし無料でチェックアウトってわけにはいかない。
ホテル側からは宿泊費全額支払うように言われたけど、フェリーバが交渉してけっきょく半額を支払うことにした。
きょう街で出会ったばかりの人の家にホームステイ。
イランってすごい国だな・・・。
あのバングラデシュの旅の再来だ。

まさかフェリーバの家で夕食まで食べるとはなあ・・・。
夕食のメニューはスパゲッティ。
ちなみにイランでは夕食よりも昼食のほうが豪華。
『地球の歩き方』の旅で使うペルシア語のページを見ながら、一生懸命日本語を紙に写すフェリーバ。

「こんにちは」とか「さようなら」はいいとして、「安いホテルはどこですか」「バスの切符はいくらですか」なんて日本語、覚えなくていいと思うけど。
その後はみんなで折り紙。


「泊まらせる作戦」に一勝しているフェリーバ。
次は「あすも泊まらせる作戦」を敢行。
「なんで明日ここを出て行かなきゃいけないの?」
「夫が働くぶどう農園に行って、いっしょにぶどう狩りをしようよ」と誘われる。
ぶどう農園の街ってここからかなりの距離で1日では無理だよね。
そんなことしてたら一週間コースになっちゃうよ。
本当に、バングラデシュの旅が思い出される。
バングラでも結局流されてしまって、予定外のホームステイをしてビザの期限が切れるところだった。
バングラのときは最後はインドとの国境まで見送りに来てくれて、涙の別れになった。
ケンゾーと話す。
「もう絶対あしたここを出よう。
そうじゃないと、いつまで経ってもここから脱出できんようになる。」
「うん。キリないもんね。」
「バスの切符をもう買ってるから」って断ると「バスの切符を破ってしまえばいいじゃない」と何度もバスの切符を破る仕草をする。
ダメダメ。
負けちゃダメだ。
「イランをまわって、最後にまたこの街に来るから」と説得し、次の日、この家を出ることにした。
バスターミナルまで車で送ってくれるフェリーバ。
途中、おばあちゃんが住む家に立ち寄った。
でも、バスの時間は迫っている。

バングラデシュのときと重なる。
バングラデシュのときも、ようやくホームステイ先の家族を説得して家を出たはいいけれど、途中なぜか学校に寄らされたり、親戚の家に寄ったり、友だちに紹介されたりとどんどん時間が過ぎていって、その日のうちに国境越えできない可能性が出てひやりとしたんだった。
今回もバスの時間が過ぎたら、また家に舞い戻ることになる。
時間がないことをアピールして、おばあちゃんとお別れ。

ありがとう、おばあちゃん。
車を見送りながら「インシャー アッラー」と何度も言い続けるおばあちゃん。

もう100回目くらいの「インシャー アッラー」だ。
おばあちゃん!子づくりがんばるよ!!

よし、今度こそバスターミナルだ。
そう思ったら、今度はフェリーバの妹のだんなさんがいるところで車がとまった。

大急ぎであいさつして、写真撮影。
ようやくバスターミナルへ。

バスターミナルに着いても、フェリーバは「本当にきょう行くの?」と聞いてくる。
そして切符を破る仕草をする。
フェリーバ、ごめんね・・・。
バスが出るときまで見送ってくれるのかなと思ったら、フェリーバは待合室でお別れの言葉を言った。
今にも泣きそうな顔になっている。
たぶんこれ以上ここにいると、涙が出てしまうからなんだと思う。
抱擁すると、フェリーバはうつむいたまま、足早に待合室から出て行った。
ちらっとこっちを見返したフェリーバは泣いているみたいだった。
フェリーバ、ありがとう。
たった一日だったけど、とても楽しかったよ。
出会えて良かった。
ほんとうに、ありがとうね。
忘れないから。
タブリーズへと向かうバスの中、オルーミーイェ湖が見えた。
世界でも有数の大きさの塩湖。
いまでは水不足やダムの建設からか水面の半分以上が干上がっている。


それでも水を湛えている部分は、水面に雲が映って「ウユニ塩湖」みたいになっている。

たしかにきれいだけど、感動しない。
こんな風景を見るよりも、フェリーバたちと過ごした時間のほうが何倍も楽しかったから。

「そういえばここ、観光しにこようとしとった湖やね。
結局、オルーミーイェの観光地には行けんかったね。」
「うん。
オルーミーイェに来たらみんなが行くっていう教会も見とらんよね。」
「でも、そんなのもうどうでもいいね。」
「うん。
イランの旅は、観光よりも人と触れ合うのが一番かもしれん。」
まだ2晩しか過ごしていないイラン。
それでも「この国が好きになる」というのをイクエとケンゾーは確信している。
だってわたしたち、観光よりも「人」が好きなのだから。
頭にスカーフ巻いてないといけないイランでは、みんなが通る廊下の共用の洗面台で女が髪を洗うなんてことできないからしょうがないね。
街で「ジャポーン!?」と声をかけられ、まったく言葉が通じないのにイラン人の家庭におじゃましてしまったイクエとケンゾー。
言葉は通じないけど、なんとかなるもんだね。
この家庭で、もう何杯目のお茶をごちそうになってるだろう。

ちなみにこの家にはフェリーバ(38歳)と二人息子のアーラッシュ(21歳)とプイヨン(20歳)が住んでいる。
フェリーバは17歳で結婚、子どもを生んでいる。
日本の感覚からするとかなり早い。
フェリーバの夫はぶどう農園で働いている。
ぶどうが実るこの季節、大黒柱のお父さんはぶどうが採れる別の街に住み込んで収穫作業をしているので今は不在。
ここオルーミーイェを含め、トルコに近いイラン北部は人種としてはトルコ人。
フェリーバたちによると、祖先が昔トルコからここに移り住んだのだそう。
だからみんなトルコ語を話す。
トルコ語がわからないイクエとケンゾー。
英語がわからないフェリーバたち。
お互い言葉がわからないから、会話に時間がかかる。
お父さんがぶどう農園で働いているっていう情報も、フェリーバが紙にぶどうの絵を描いて必死に説明してくれたからわかった。
「伝えあう」「分かりあう」というのは、言葉以上にその意志が重要なのかもしれない。
息子たちのおばあちゃんは、フェリーバの妹といっしょに別の家に住んでるんだけど、この家に遊びにきてくれた。
イクエってけっして「おじさんキラー」じゃないんだけど「おばあちゃん、おばさんキラー」なんだよね。
自分で言うのも何なんだけど、年上の女性に好かれる。

娘みたいに思われるのかな。
ちなみに、この家庭でもそうだしほかの女性にも言われたんだけど、イランでは前髪が短いのはとっても珍しいらしい。
「アハハハ! なんで前髪がこんなんなのー!?」と言われる。
イランではみんなスカーフで髪を隠すから前髪も長くしている。
イランで前髪が短いのはスカーフをしない小さな女の子くらい。
だから前髪が短いと「かわいらしい」と映るみたい。
イランを旅する女性! 前髪短くしていくとみんなにウケますよ!
ちなみに外では絶対巻いとかないといけないスカーフだけど、家では外すのOKだし半袖着るのもOK。
厳格な家庭だとNGみたいだけど。
このおばあちゃん、スカートがまくれて足が見えた。
ストッキングの下に湿布みたいなのがペタペタ貼ってある。
足が痛いのかなあ。
「おばあちゃん、足痛いの? 大丈夫?」ってさすろうとしたら、湿布じゃなくて紙幣だった!
ひざ下ストッキングを財布代りにしてたんだ!
ストッキングの中には何枚ものお札がねじ込んである。
イクエとケンゾーがおばあちゃんの隠し財布を発見してびっくりしたら、娘や孫も大爆笑。
そんなかわいいおばあちゃん、イクエとケンゾーに子どもがいないというのがわかるとものすごく同情してくれた。
バングラデシュでもそうだったんだけど、イスラムの国で結婚してるのに子どもがいないというのはかなり驚かれる。
「女は子どもを産むべし!」だからね。
この1年旅をしてきて「どうして子どもを産まないの!?」という質問は100回以上されていると思う。
「そのうちね」とか「日本で働いてて忙しかったから」とか「いま旅行中だから」と言ってももちろん納得してもらえない。
(出産のことだけでなく「早く結婚すべし」という教えもあるから、独身女性が結婚もせずひとりでイスラム圏を旅行するのはかなり奇異に思われるみたい。)
この家のおばあちゃんは、イクエのお腹をさすりながら「インシャー・アッラー(神がお望みなら)」と何度も唱えている。
「大丈夫、神が授けてくれる」
そんなふうに慰められてるみたい。
ありがとう、おばあちゃん。
おばあちゃんは心配してくれてるのに、本人たちがそんなに真剣に考えず旅行なんてやってるから、なんだか申し訳ない気持ちになる。
おばあちゃんが家に帰るというので、最後にみんなで記念撮影。

おばあちゃんにプレゼントを、と思って記念に五円玉にリボンをかけたものを渡した。
するとおばあちゃんは「お金なんて受け取れない!」と突き返す。
「記念だから」「お守り代りに」って説明してもおばあちゃんにとっては「お金をもらう」というのは気が引けるみたい。
「たったの五円の価値しかないんだから」と家族といっしょに説得。
するとおばあちゃんは五円玉を受け取ったんだけど、五円とは比べものにならないくらいの額のイラン紙幣をイクエの手に押し付けてきた。
「いやいやいや、困る困る。
そんなことなら五円玉を返してもらったほうがいい。」
そう言って今度はイクエたちがおばあちゃんにイラン紙幣を押し付けるんだけど受け取ってくれない。
そこでケンゾーが強行手段に出た。
おばあちゃんのひざ下ストッキングに紙幣をねじ込んだ!
家族みんなで大笑い。
おばあちゃんも、顔を赤らめて照れ笑い。
五円玉を胸につけて、家へと帰っていった。
しばらくするとおばあちゃんからフェリーバに電話がかかってきた。
電話を代わって「チョクサオール(ありがとう)」と伝える。
おばあちゃんは「インシャー アッラー」と何度も何度も繰り返す。
フェリーバがお腹を指しながら「おばあちゃんは赤ちゃんができるように祈ってるんだよ」と言った。
わ、わるいねえ、おばあちゃん。
が、がんばるよ。
電話を切ってしばらくしたら、チャイムが鳴った。
どんなお客さんかと思ったら・・・。
息を切らしながらやってきた、おばあちゃん!!

わざわざ家からイクエのために干しアンズと、ブレスレット、それにこのハデハデの赤いヒョウ柄シャツとタンクトップを持ってきてくれてプレゼントしてくれた。
ありがとうおばあちゃん!
きっとおばあちゃんの勝負服として大事にタンスにしまってたんだね。
びっくりするぐらい派手だけど、がんばって使わせてもらうよ!!
それからはフェリーバの妹とお友達もやってきた。
挨拶しあって3人で外出。

言葉がわからないからどこに向かっているかわからないんだけど、やってきたのはショッピングビル。
その一室のお店の鍵をフェリーバが開けた。
ここは、フェリーバのお店らしい。

家にも編みかけの小物や毛糸があったし、フェリーバはここで手作りのものを売っているみたい。

そしてなぜか既製品の下着も売っている。
いきなりイクエの胸を服の上からモミッ。
売り物のブラジャーからイクエサイズのものをプレゼントしてくれた。
(あとからつけたら結局ブカブカだった。
イラン人は豊満なのね。
ケンゾーには「そのブラジャー、意味をなしてない」って言われてるけど使ってるよ!)
そして派手なパンツももらった。
スカーフで頭を隠して、暑くても長袖のコートですっぽり体を覆っているイラン人女性たち。
でも下着はセクシーなのがお好みなのかも。

フェリーバのお店をあとにして、タクシーに乗り、街を歩き、ある場所を目指す。
(タクシー代はフェリーバが払ってくれた。申し訳ない。)
そうそう。
イランの街には、こういうのもいるよ。

向かった先と言うのは・・・。

ん?
なんでバックパック持ってるの?
なんとチェックインしていたホテルをフェリーバの(強引な)勧めにより出て、きょうはフェリーバの家にホームステイすることに。
家でお昼ご飯をごちそうになったあたりから、フェリーバの引き止め作戦は始まって、寝室のベッドにイクエとケンゾーを座らせて「ここで今から昼寝をしなさい」とか「ちょっとお風呂に入ってゆっくりしなさい」と言われ続けていた。
さらに「もう、きょうはここに泊まりなさい!」と説得され・・・。
最初はお断りしてたんだけど、最後は根負けしてホームステイすることに。
ホテルの部屋にすでに荷物を置いていたし、泊まらないにしてももう夕方だし無料でチェックアウトってわけにはいかない。
ホテル側からは宿泊費全額支払うように言われたけど、フェリーバが交渉してけっきょく半額を支払うことにした。
きょう街で出会ったばかりの人の家にホームステイ。
イランってすごい国だな・・・。
あのバングラデシュの旅の再来だ。

まさかフェリーバの家で夕食まで食べるとはなあ・・・。
夕食のメニューはスパゲッティ。
ちなみにイランでは夕食よりも昼食のほうが豪華。
『地球の歩き方』の旅で使うペルシア語のページを見ながら、一生懸命日本語を紙に写すフェリーバ。

「こんにちは」とか「さようなら」はいいとして、「安いホテルはどこですか」「バスの切符はいくらですか」なんて日本語、覚えなくていいと思うけど。
その後はみんなで折り紙。


「泊まらせる作戦」に一勝しているフェリーバ。
次は「あすも泊まらせる作戦」を敢行。
「なんで明日ここを出て行かなきゃいけないの?」
「夫が働くぶどう農園に行って、いっしょにぶどう狩りをしようよ」と誘われる。
ぶどう農園の街ってここからかなりの距離で1日では無理だよね。
そんなことしてたら一週間コースになっちゃうよ。
本当に、バングラデシュの旅が思い出される。
バングラでも結局流されてしまって、予定外のホームステイをしてビザの期限が切れるところだった。
バングラのときは最後はインドとの国境まで見送りに来てくれて、涙の別れになった。
ケンゾーと話す。
「もう絶対あしたここを出よう。
そうじゃないと、いつまで経ってもここから脱出できんようになる。」
「うん。キリないもんね。」
「バスの切符をもう買ってるから」って断ると「バスの切符を破ってしまえばいいじゃない」と何度もバスの切符を破る仕草をする。
ダメダメ。
負けちゃダメだ。
「イランをまわって、最後にまたこの街に来るから」と説得し、次の日、この家を出ることにした。
バスターミナルまで車で送ってくれるフェリーバ。
途中、おばあちゃんが住む家に立ち寄った。
でも、バスの時間は迫っている。

バングラデシュのときと重なる。
バングラデシュのときも、ようやくホームステイ先の家族を説得して家を出たはいいけれど、途中なぜか学校に寄らされたり、親戚の家に寄ったり、友だちに紹介されたりとどんどん時間が過ぎていって、その日のうちに国境越えできない可能性が出てひやりとしたんだった。
今回もバスの時間が過ぎたら、また家に舞い戻ることになる。
時間がないことをアピールして、おばあちゃんとお別れ。

ありがとう、おばあちゃん。
車を見送りながら「インシャー アッラー」と何度も言い続けるおばあちゃん。

もう100回目くらいの「インシャー アッラー」だ。
おばあちゃん!子づくりがんばるよ!!

よし、今度こそバスターミナルだ。
そう思ったら、今度はフェリーバの妹のだんなさんがいるところで車がとまった。

大急ぎであいさつして、写真撮影。
ようやくバスターミナルへ。

バスターミナルに着いても、フェリーバは「本当にきょう行くの?」と聞いてくる。
そして切符を破る仕草をする。
フェリーバ、ごめんね・・・。
バスが出るときまで見送ってくれるのかなと思ったら、フェリーバは待合室でお別れの言葉を言った。
今にも泣きそうな顔になっている。
たぶんこれ以上ここにいると、涙が出てしまうからなんだと思う。
抱擁すると、フェリーバはうつむいたまま、足早に待合室から出て行った。
ちらっとこっちを見返したフェリーバは泣いているみたいだった。
フェリーバ、ありがとう。
たった一日だったけど、とても楽しかったよ。
出会えて良かった。
ほんとうに、ありがとうね。
忘れないから。
タブリーズへと向かうバスの中、オルーミーイェ湖が見えた。
世界でも有数の大きさの塩湖。
いまでは水不足やダムの建設からか水面の半分以上が干上がっている。


それでも水を湛えている部分は、水面に雲が映って「ウユニ塩湖」みたいになっている。

たしかにきれいだけど、感動しない。
こんな風景を見るよりも、フェリーバたちと過ごした時間のほうが何倍も楽しかったから。

「そういえばここ、観光しにこようとしとった湖やね。
結局、オルーミーイェの観光地には行けんかったね。」
「うん。
オルーミーイェに来たらみんなが行くっていう教会も見とらんよね。」
「でも、そんなのもうどうでもいいね。」
「うん。
イランの旅は、観光よりも人と触れ合うのが一番かもしれん。」
まだ2晩しか過ごしていないイラン。
それでも「この国が好きになる」というのをイクエとケンゾーは確信している。
だってわたしたち、観光よりも「人」が好きなのだから。
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