※2013.02.20の記事です。
日本から持ってきていたDHCの乳液が無くなったのでミネラルウォーターを入れて薄めて使っていたけど、もう限界にきたので、あしたからは台湾製の乳液を使う予定のイクエです。
バックパッカーの自由な旅。
決められた旅程なんてのはない。
だからこそ
「あのときあの場所に行ったから」
「もしこの選択肢を選んでなかったら」
なんて思うことがたまにある。
あれは運命だったのかなあって。
バングラデシュを出国しようとしていたわたしたちにその運命が待ち構えていた。
バングラデシュからインドに陸路で移動するにはいくつかのルートがある。
一番メジャーなのは、首都のダッカから夜行バスでインドのコルカタを目指すもの。
イクエたちも当初その予定でいたし、インドビザを申請するときもそのルートで申請を出していた。
インドビザを夕方受け取り、そのままコルカタ行きの夜行バスに乗るつもりだった日。
バスのチケットをあらかじめ買おうとしたけど「万が一、きょうビザを受け取ることができなかったら」なんていらぬ心配をし、乗る直前に買うことにした。
その後、無事に受け取ったビザを見てみるとルートの指定がされていないことが発覚。
インドビザに出国と入国場所が記載されている場合はそのとおりのルートで行かないといけないけれど、指定されていなければどこからインドに入ってもいいし、どこから出てもいい。
「じゃあ、べつにコルカタ目指すルートじゃなくていいじゃん!」
「なんなら、北のほうからバングラ抜けて、インドのダージリンに行こうか!」
なんて、まったくの思いつきでそのまま駅に行き、夜行列車でバングラデシュの北、ブリマリに行くことを急遽決めたのだった。
これがあの出会いにつながるとは・・・。
夜行列車は、エアコンなしの安い寝台なんだけど一応ドアがついてコンパートメントになっている。
バングラ最後のはずの夜を硬いシートに寝そべって過ごし、バングラ最後のはずの朝日を車窓から眺めた。


夜行列車の終点は、目的地の途中「ラルモニルハット」という駅。
ここでバスに乗り換えて、そのまま国境の街まで移動。
のはずだったんだけど、この日はあいにくのストライキ。
バスは運休している。
最後についてないなあ。
一応、ホームで人に聞いてみたら、やっぱりバスはないから5時間後の列車で行くしかないと教えてくれた。

何気なく撮った写真。
実は、もうこのとき運命の出会いを果たしていたのだった。
その人が、右のジャケットの男性。
駅に荷物を預けて、どっかで朝ゴハンでも食べようと駅前をぶらぶらしていたらさっきの男性が手招きしている。
あんまり英語はできないんだけど「こっちで食べろ」みたいなことを言っている。
まあ、いいか。
じゃあここで食べよう。
彼の名はノルシャヒン。42歳。
妻が英語をしゃべれるようで妻に電話してイクエたちに電話をかわった。

彼の妻は言った。「うちに遊びに来なさいよお。」
「でも、今日中にインドに行きたいから。残念です。」
ノルシャヒンはイクエたちの目指す国境の街の近くに家があるらしく、同じ列車に乗るようだった。
彼はイクエたちの朝食代をおごってくれて、ついでに時間をつぶすためオートリキシャで街の中心部までいっしょに行くことにした。リキシャ代も払ってくれた。
ここまではよくあるような出会いだし、これまでもこんな気前がいいバングラ人にたくさん出会ってきたので別に特別なことと思ってなかったイクエとケンゾー。
でも、あとになってこのオートリキシャで撮った写真を見てみると、出会ったばかりなのにふたりともいい顔をしていて、やっぱり何かお互いひかれるものがあったのかなあって思う。

中心部まで移動していったん彼に別れを告げたイクエとケンゾー。
きのうのブログに書いたように、孤児院を訪問させていただいて、再び駅へ向かってホームでノルシャヒンと落ち合った。
列車は指定席のないローカル線で、それはそれは凄まじい席争奪戦。
駅のホームでたまたま出会った、ノルシャヒンの弟の友人で警察官のシュージョンもいっしょに乗り込む。
手前が26歳のシュージョン。

そんななか、みんな外国人のイクエたちに席を空けてくれて座ることができた。
席を詰めて座らせてくれた親子連れ。

親子連れとおしゃべりしてたら「日本の歌を聞かせて〜」というリクエストが。
さすがに大勢の前で下手くそな歌を披露することは気が引ける。
なにかいい方法はないかなーと思って、ケンゾーのiPhoneを貸す。
平井堅の「大きな古時計」がすごく気に入ったみたい。

のろのろで進む列車。
たぶん、これじゃあ今日中にインドは無理だよねえ。
国境の街でホテルを探して泊まるしかないねえ。
ノルシャヒンに聞いてみた。
「ブリマリにホテルある?」
「じゃあ、うちに泊まればいいでしょ」
きょう会ったばかりだし、彼がどんな家に住んでるのかわからない。
だけどガイドブックにも載っていない見知らぬ街で夜遅くにホテル探すよりも、床の上でもいいから寝させてもらおう。
お言葉に甘えることにし、彼に急かされるまま列車を降りたらそこは・・・。
あれ? なんかこの駅小さくない?
ここ終点じゃないよねえ。
ここが国境の街?
ここ、ブリマリじゃないじゃん!!
そこはブリマリの手前の駅「パトグラム」だった。
でも、まあ、いいや。
あした乗合いワゴンをつかまえてブリマリを再び目指そう。
ノルシャヒンとリキシャに乗って、なぜか途中の仕立て屋さんに立ち寄る。
「オンリーファイブミニッツ!」

親戚らしくて、イクエたちを紹介したかったみたい。
こっちの布を見てる分にはいいんだけど、ちょっと向きを変えれば・・・
視線、視線、視線。
こんな街に外国人が来ることなんてないから、わんさか人が集まってくる。

視線の攻撃で居心地が悪い。
すぐ向かいのクリニックに移動した。
このクリニックも親戚がやってるみたい。
だけど、移動したところで視線の攻撃から逃れることはできない。

人が押し寄せるからシャッター閉めたんだけど、シャッターの下から覗いてくる。
「果たしてわたしたちはバングラから脱出することができるんだろうか。
風のようにやってきて、さらりとここを去ることなんてできないんじゃないか。」
なんとなく、そんなふうに思った。
今度はバイクでノルシャヒンの家に行くことにしたんだけど、バイクにまたがっていざ出発しようとしてもみんなが集まってなかなか走らせられない。

この後、ほかの薬屋にも寄って別の親戚を紹介された。
さっきからノルシャヒンは「オンリーファイブミニッツ!」って言って、いろんなとこに立ち寄っている。
そしてまた「ファイブミニッツ!」。
親戚のお茶屋さんに入って、紅茶とスイーツをごちそうになったんだけど、もうね、人がね。
もうすごいことになってますね。
みんな動物園のパンダでも見に来たの?
暗闇に光る無数の目。


またバイクに乗って今度こそノルシャヒンの家に向かおうとするんだけど、うわさを聞きつけたのか、街中の人が集まってすごい!
どこまで人がいるんだ〜!

人が多すぎて後ろの人たちはイクエたちが見えないようで、台を持って来てそこに上がって見る人もいた。
人酔いしそうなほどだったけど、ノルシャヒンの家はとっても田舎で電気も通ってなくて、小さなソーラーパネルがあるだけ。
水道もなくて井戸を使うような、素朴な生活をしていた。
家では家族がイクエたちをあたたかく迎えてくれた。
ノルシャヒンのお父さんトホシルダーとお母さんのビナール、そして長女のプリオンティ。

キッチンは母屋のとなりの簡素な建物。
中では、奥さんのムンニーが夕食の準備をしてくれていた。


ムンニーはバングラの首都ダッカで生まれ育ったのだそう。
もちろん電気もコンロもある家だったので、ここに嫁いでからかまどでの料理の仕方を義理のお母さんに教えてもらったんだって。
彼女は言う。
「もう、自分ちに日本人が来てくれてるなんてほんとうに信じられない!
すっごいうれしい。
わたし結婚してからここに来て、英語を使う機会なんてなくてどんどん英語忘れていってるの。」
彼女の年齢は21歳。
なんと夫との歳の差21歳。
しかも結婚したときは奥さん16歳!
奥さんが通ってた学校でノルシャヒンが働いていたときに、つきあい始めたんだって!
自分の父親と年齢があまりかわらないのに、よく16歳の子がおじさんを好きになったもんだ。
もう、これには笑うしかなくて爆笑していたら、家族もみんな大爆笑。
お父さんまで、息子よくやったぞ!みたいに「ダブルスコア!」って笑っている。
おじさんキラーのムンニーは
「うちの夫は人のハートをキャッチする才能がある。
だから、あなたたちもきょう夫について来たんでしょう」なんて言っている。
そうね、うまく説明できないけど、イクエとケンゾーもこの人について行ってみようって思ったのは事実だもんね。
そんな掟破りなロマンチストのノルシャヒンが、鶏をつかまえてきた。
「鶏肉好き?」
「うん!」

なぜか駅でたまたま出会った警察官のシュージョンも、イクエたちが泊まるのできょうはこの家に泊まらせてもらうみたい。
ふたりで慣れた手つきで鶏の首を切り落とす。

貴重な鶏肉をごちそうしてくれるなんてとてもありがたい。
以前ネパールの山村でホームステイしたときも地鶏をごちそうになったことがあるけど、新鮮な鶏肉は身が引き締まっていて、それでいて柔らかくて美味しい!
若奥さまが火をおこして、スパイスをいれてぐつぐつ煮込む。


突然の来客をみんなでもてなしてくれてありがとう!
「明日の朝早く、インドに向かいます。
今晩だけお世話になります。」

そしたら、ノルシャヒンがすかさず言った。
「トゥモロー、ノー。
アフタートゥモロー!!」
それはとても早口で、あたり前のことを言っているような感じで言った。
ん!!
ちょっと待って!
あさってってどういうこと?
ここに来る前から一晩だけ泊めてもらって明日出発するって伝えてたよね・・・。
そしたら奥さんのムンニーが
「ワンウィーク!」と強い口調で言った。
一週間もここにいたら、ビザの期限が切れて不法滞在になるよ!
お父さんまで眉間にしわを寄せて「ロング ステイ! ワンマンス!」と言っている。
「でも、明日出発します。
ありがとう。」
家族は首を縦にふらない。
こんなホスピタリティーあふれた家族に別れを告げて、あしたほんとうにインドに行けるのだろうか?