「世界一美しい湖」とパナハッチェル
体重を計ってなくて気になってるけど、体重計がないのでそのままのイクエです。
帰国してから実家に居候して母の手料理を三食食べて、被災して今度はお菓子をいっぱい食べるようになって、いつのまにか肉付きよくなっていて夫に呆れられていた。
間食を減らしたので少しはマシになったと思うんだけどな・・・。
「世界一美しい湖」。
そう呼ばれるアティトラン湖の湖畔の村、サン・ペドロ・ラ・ラグーナに滞在しているイクエとケンゾー。
きょうは足を伸ばして、別の村に行ってみることにした。
湖畔に面した村のなかでもっとも大きいパナハッチェルという村。
「パナハッチェル」という響きがなんだかかわいくて、一度聞いてからずっと耳に残っていた。
パナハッチェルは、湖畔の村々を回る拠点になっていて、宿や食べるところも多く、ツーリストに人気の場所。
はじめはサン・ペドロ・ラ・ラグーナではなくて、パナハッチェルに滞在しようかと思っていたけど、宿代が高そうなのでやめていたのだった。
パナハッチェルはここからだと湖の対岸に位置している。
湖を取り囲むように山々がそびえているので、車だと何度も峠を越えなければならず何時間もかかる。
船で湖を横切るのが、一番いいのだ。
「世界一美しい湖」をボートで渡るのは、とても気持ちがいいだろうなあ。
坂を下りると、観光地みたいなボート乗り場に出た。
「これが世界一?」
「いやいや、日本にももっときれいな湖あるよ。
水も濁っとるし。」
「世界一美しい」とは誰がどんなふうに言い始めたのか。
基準なんてわからないし、言ったもん勝ちなのかもしれない。
ボート乗り場には、オープンテラスのレストランが突き出ている。
観光客が湖を見ながら、昼間からコーヒーやビールを楽しんでいる。
湖畔では、釣ったばかりの魚を女性が何匹もさばいている。
観光地と地元の人たちの生活空間が混在している場所。
有料の乗合いボートに乗ってそれぞれの村を行き来することもできるけれど、地元の人たちはカヌーで自由に湖を行き交っている。
湖の表面積はおよそ125平方キロメートル。
この広い湖に面して集落が点在している。
カヌーが車がわり。
ここからパナハッチェルまで湖を渡ると直線距離で20キロあまり。
およそ30分の船旅。
運賃は片道ひとり25ケツ(400円)と、バスに比べるとちょっと高い。
青い空。
照りつける太陽。
きょうは、天気がいい。
でも、暑くて体がだるくなるような気候ではない。
湖の標高はおよそ1560メートル。
ボートに乗ると、涼しい風が頬を打つ。
ひっそりと存在しているアティトラン湖。
もっとも深いところで水深320メートル。
中米でいちばん深い湖なのだそう。
深い湖を取り囲むのは、きれいな稜線を描く火山たち。
標高3537メートルのアティトラン火山。
そして標高3158メートルのトリマン火山に3020メートルのサン・ペドロ火山。
手前の湖畔に目をやると、山肌に張り付くように建物が肩を並べている。
湖畔の別の村だ。
それぞれの村によって民族衣装が異なり、特色をもっている。
湖の南側の集落はツトゥヒル語、北側ではカクチケル語が使われているという。
この湖はカルデラ湖で、8万4000年前、火山の噴火によって誕生したといわれている。
山には木が茂っていて、自然豊か。
湖はたくさんの生き物たちの宝庫。
「世界一美しい湖」。
世界一とは言えないけれど、折り重なる山々と静かな湖面を見ていると、爽やかな気持ちになってくる。
「世界一」と称したい気持ちもわからなくもない。
「えー?
なんあれ?」
興ざめする光景が視界に入ってきた。
15階建てくらいのマンションのようなリゾートホテルのような建造物。
美しいまわりの光景を台無しにしている。
高層の建物の存在にがっかりしていると、ボートが桟橋に止まった。
パナハッチェルに到着。
こちらの船着き場はサンペドロよりも簡素で雰囲気はある。
でも中心地へと続く道は車が通れるくらい広くて舗装されている。
道の両脇には大きな家があるだけで、普通の住宅街に紛れ込んだよう。
お店があって賑わっているわけでもないし、人々の暮らしぶりが感じられるわけでもない。
伝統衣装に身を包んだ人たちの姿もほとんどない。
おもしろみのない道をしばらく歩いていくと、メインストリートに出た。
「うわ。」
「こんなふうになってるんだ。」
マヤの先住民族たちが昔ながらの生活で素朴に生きている。
カラフルな織物に身を包み、生き生きと。
そんな村を想像していたのだけど。
観光客だらけのお土産ストリート。
「素朴な湖畔の村」のイメージはない。
グアテマラのお土産をたくさん買いたいのなら、ここはふさわしい場所かもしれない。
でも、ひとつひとつ丁寧に造り上げたような手縫いの物は少なく、大量生産された既製品のようなものがほとんど。
「ここに泊まらんでよかったね。」
「お土産にも興味ないし、どこ観光する?」
ここには有名なコーヒーショップがある。
クロスロード・カフェ(Crossroads Cafe)。
オーナーはアメリカ人で、グアテマラ各地の厳選したコーヒー豆を扱っているのだそう。
店はメインストリートから外れた裏通りに、存在感なく建っていた。
でも、中をのぞいてみてびっくり!
たくさんの外国人観光客がコーヒーを飲んでいる。
青い服を着たオーナーは、妻と幼い娘と車でアメリカを発ち、旅をしながら南下し、はるばるグアテマラまで流れてきたのだと言う。
グアテマラコーヒーの味わい深さと、この村の魅力に惹かれて、コーヒーショップをオープンさせた。
標高の高いグアテマラは「常春の国」と呼ばれていてさわやかな気候。
火山灰が作り出す豊かな土壌も手伝って、コーヒー豆の栽培に適した土地となっている。
上質のコーヒー豆が取れるのに、焙煎や用具にこだわっておいしいコーヒーを淹れてくれる店は少ない。
せっかくコーヒーの名産地のグアテマラに来ているんだから、おいしいコーヒーを味わいたい。
ここは、そんな思いの旅行者たちに支持されているカフェ。
コーヒー1杯8ケツ(128円)。
グアテマラの物価を思えば、けっして安くはない。
でも、このオーナーはとても太っ腹で、コーヒーのおかわりをごちそうしてくれたり、コーヒー豆を買って帰ると表示価格よりも値引きしてくれたりする。
香ばしいコーヒーの香りで癒やされ、おいしいコーヒーでゆったりとした気分になったけれど、メインストリートに戻ると、あいかわらずさわがしく風情がない。
民族衣装に身を包んだ初老の女性が、観光客を呼び止めては既製品のお財布やポーチを売ろうとしている。
数十年前にもここを訪れたことのある人が言っていたそう。
「あのときと全然違う。
様変わりしている。
昔はもっと素朴で、田舎だった。
隠された桃源郷みたいで素晴らしかったのに・・・。」
昔はたしかに「世界一美しい」場所だったのかもしれない。
湖だけではなく、周りの景色や人々も含めて「世界一美しい」光景だったんじゃないか。
湖を取り囲むようにそびえる円錐型の火山、丘陵地帯ではコーヒーの木が真っ赤な豆をたわわにつけている。
波紋を立ててゆっくりと進むてごきボート。
カラフルな民族衣装に身を包んだマヤの先住民たちが伝統的な生活をしている。
色彩に満ちた、美しい場所だった。
そこに観光客がたくさん来るようになって、ホテルができ、高いレストランができ、お土産屋さんばかりになって。
こういうところに来るといつも、残念な気持ちになるとともに胸が痛い。
旅人である自分もそれに加担しているのだと。
旅行しやすくなって、グローバリゼーションが進んで、地球は前よりも小さくなった。
それと同時に、地球から少しずつ、美しさが消えている。
帰国してから実家に居候して母の手料理を三食食べて、被災して今度はお菓子をいっぱい食べるようになって、いつのまにか肉付きよくなっていて夫に呆れられていた。
間食を減らしたので少しはマシになったと思うんだけどな・・・。
「世界一美しい湖」。
そう呼ばれるアティトラン湖の湖畔の村、サン・ペドロ・ラ・ラグーナに滞在しているイクエとケンゾー。
きょうは足を伸ばして、別の村に行ってみることにした。
湖畔に面した村のなかでもっとも大きいパナハッチェルという村。
「パナハッチェル」という響きがなんだかかわいくて、一度聞いてからずっと耳に残っていた。
パナハッチェルは、湖畔の村々を回る拠点になっていて、宿や食べるところも多く、ツーリストに人気の場所。
はじめはサン・ペドロ・ラ・ラグーナではなくて、パナハッチェルに滞在しようかと思っていたけど、宿代が高そうなのでやめていたのだった。
パナハッチェルはここからだと湖の対岸に位置している。
湖を取り囲むように山々がそびえているので、車だと何度も峠を越えなければならず何時間もかかる。
船で湖を横切るのが、一番いいのだ。
「世界一美しい湖」をボートで渡るのは、とても気持ちがいいだろうなあ。
坂を下りると、観光地みたいなボート乗り場に出た。
「これが世界一?」
「いやいや、日本にももっときれいな湖あるよ。
水も濁っとるし。」
「世界一美しい」とは誰がどんなふうに言い始めたのか。
基準なんてわからないし、言ったもん勝ちなのかもしれない。
ボート乗り場には、オープンテラスのレストランが突き出ている。
観光客が湖を見ながら、昼間からコーヒーやビールを楽しんでいる。
湖畔では、釣ったばかりの魚を女性が何匹もさばいている。
観光地と地元の人たちの生活空間が混在している場所。
有料の乗合いボートに乗ってそれぞれの村を行き来することもできるけれど、地元の人たちはカヌーで自由に湖を行き交っている。
湖の表面積はおよそ125平方キロメートル。
この広い湖に面して集落が点在している。
カヌーが車がわり。
ここからパナハッチェルまで湖を渡ると直線距離で20キロあまり。
およそ30分の船旅。
運賃は片道ひとり25ケツ(400円)と、バスに比べるとちょっと高い。
青い空。
照りつける太陽。
きょうは、天気がいい。
でも、暑くて体がだるくなるような気候ではない。
湖の標高はおよそ1560メートル。
ボートに乗ると、涼しい風が頬を打つ。
ひっそりと存在しているアティトラン湖。
もっとも深いところで水深320メートル。
中米でいちばん深い湖なのだそう。
深い湖を取り囲むのは、きれいな稜線を描く火山たち。
標高3537メートルのアティトラン火山。
そして標高3158メートルのトリマン火山に3020メートルのサン・ペドロ火山。
手前の湖畔に目をやると、山肌に張り付くように建物が肩を並べている。
湖畔の別の村だ。
それぞれの村によって民族衣装が異なり、特色をもっている。
湖の南側の集落はツトゥヒル語、北側ではカクチケル語が使われているという。
この湖はカルデラ湖で、8万4000年前、火山の噴火によって誕生したといわれている。
山には木が茂っていて、自然豊か。
湖はたくさんの生き物たちの宝庫。
「世界一美しい湖」。
世界一とは言えないけれど、折り重なる山々と静かな湖面を見ていると、爽やかな気持ちになってくる。
「世界一」と称したい気持ちもわからなくもない。
「えー?
なんあれ?」
興ざめする光景が視界に入ってきた。
15階建てくらいのマンションのようなリゾートホテルのような建造物。
美しいまわりの光景を台無しにしている。
高層の建物の存在にがっかりしていると、ボートが桟橋に止まった。
パナハッチェルに到着。
こちらの船着き場はサンペドロよりも簡素で雰囲気はある。
でも中心地へと続く道は車が通れるくらい広くて舗装されている。
道の両脇には大きな家があるだけで、普通の住宅街に紛れ込んだよう。
お店があって賑わっているわけでもないし、人々の暮らしぶりが感じられるわけでもない。
伝統衣装に身を包んだ人たちの姿もほとんどない。
おもしろみのない道をしばらく歩いていくと、メインストリートに出た。
「うわ。」
「こんなふうになってるんだ。」
マヤの先住民族たちが昔ながらの生活で素朴に生きている。
カラフルな織物に身を包み、生き生きと。
そんな村を想像していたのだけど。
観光客だらけのお土産ストリート。
「素朴な湖畔の村」のイメージはない。
グアテマラのお土産をたくさん買いたいのなら、ここはふさわしい場所かもしれない。
でも、ひとつひとつ丁寧に造り上げたような手縫いの物は少なく、大量生産された既製品のようなものがほとんど。
「ここに泊まらんでよかったね。」
「お土産にも興味ないし、どこ観光する?」
ここには有名なコーヒーショップがある。
クロスロード・カフェ(Crossroads Cafe)。
オーナーはアメリカ人で、グアテマラ各地の厳選したコーヒー豆を扱っているのだそう。
店はメインストリートから外れた裏通りに、存在感なく建っていた。
でも、中をのぞいてみてびっくり!
たくさんの外国人観光客がコーヒーを飲んでいる。
青い服を着たオーナーは、妻と幼い娘と車でアメリカを発ち、旅をしながら南下し、はるばるグアテマラまで流れてきたのだと言う。
グアテマラコーヒーの味わい深さと、この村の魅力に惹かれて、コーヒーショップをオープンさせた。
標高の高いグアテマラは「常春の国」と呼ばれていてさわやかな気候。
火山灰が作り出す豊かな土壌も手伝って、コーヒー豆の栽培に適した土地となっている。
上質のコーヒー豆が取れるのに、焙煎や用具にこだわっておいしいコーヒーを淹れてくれる店は少ない。
せっかくコーヒーの名産地のグアテマラに来ているんだから、おいしいコーヒーを味わいたい。
ここは、そんな思いの旅行者たちに支持されているカフェ。
コーヒー1杯8ケツ(128円)。
グアテマラの物価を思えば、けっして安くはない。
でも、このオーナーはとても太っ腹で、コーヒーのおかわりをごちそうしてくれたり、コーヒー豆を買って帰ると表示価格よりも値引きしてくれたりする。
香ばしいコーヒーの香りで癒やされ、おいしいコーヒーでゆったりとした気分になったけれど、メインストリートに戻ると、あいかわらずさわがしく風情がない。
民族衣装に身を包んだ初老の女性が、観光客を呼び止めては既製品のお財布やポーチを売ろうとしている。
数十年前にもここを訪れたことのある人が言っていたそう。
「あのときと全然違う。
様変わりしている。
昔はもっと素朴で、田舎だった。
隠された桃源郷みたいで素晴らしかったのに・・・。」
昔はたしかに「世界一美しい」場所だったのかもしれない。
湖だけではなく、周りの景色や人々も含めて「世界一美しい」光景だったんじゃないか。
湖を取り囲むようにそびえる円錐型の火山、丘陵地帯ではコーヒーの木が真っ赤な豆をたわわにつけている。
波紋を立ててゆっくりと進むてごきボート。
カラフルな民族衣装に身を包んだマヤの先住民たちが伝統的な生活をしている。
色彩に満ちた、美しい場所だった。
そこに観光客がたくさん来るようになって、ホテルができ、高いレストランができ、お土産屋さんばかりになって。
こういうところに来るといつも、残念な気持ちになるとともに胸が痛い。
旅人である自分もそれに加担しているのだと。
旅行しやすくなって、グローバリゼーションが進んで、地球は前よりも小さくなった。
それと同時に、地球から少しずつ、美しさが消えている。